メディアでは、不正受給が横行しているかのような報道もあるが、日弁連の資料では「不正受給をしているケースはわずかな例外で、全体の0.5%ほどであり、むしろ受給資格があって使うべき状況にある人のうち約80%が生活保護を利用せず受給から漏れている」ことも伝えている(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/seikatsuhogo_qa_pam_150109.pdf)。
世間の目を気にして利用を拒んだり、審査の厳しさなどから、受給したくてもできない人も少なくなく、実際に私たちColabo(コラボ)とつながる高校生や若年女性の中にも、そうしたことに苦しめられた人もいる。各メディアには生活保護利用者への差別や偏見を助長することのないよう、生活保護制度に関する正しい知識や情報を伝えてほしい。
私が生活保護の申請に同行支援した時も、制度について間違った認識を持っていたり、専門性の低いケースワーカーと出会ったこともある。申請件数を減らすために、役所の相談窓口が申請者をブロックする「水際作戦」で申請を拒まれたり、法律で定められていることを「うちではやっていない」と断られたり、心ない言葉をかけられたりしたことがある。
ケースワーカーの仕事は、利用者と信頼関係を築き、生活や自立を支援すること。丁寧に関係性をつくることが求められる立場にあるのに、今回のように「不正受給をしているのではないか」と、初めから疑いの目を向けてしまっては、信頼関係は築けない。その職員を責めるだけではなく、専門性のある職員を確保したり、育てるための採用の仕組みや研修、ケースワーカーが一人で抱え込まないような体制づくりや、職員のサポート体制を増やすための予算が必要だと思う。
自分の生活や命が、ケースワーカーの判断に委ねられていると感じ、困ったことがあっても、どこまで何を話したらいいのかわからないと思ったり、おびえる利用者もいる。隠すつもりはなかったが、相談しようと思えなかったことがきっかけで、結果的に不正受給となってしまった人もいる。
「困った時にはこの人に相談してみようかな」と思える関係性をつくることができれば、不正受給も減るのではないかと思う。利用者の不安を取り除くことは、利用者が権利を安心して使うためにも必要であり、それがその人の自立にもつながり、世の中をよくしていくことにもつながる。「ちゃんと話を聞いてくれる」「この人なら信頼できる」と思える人がいることが生きる力になる。「一緒にやっていこう」という仲間や伴走者がいて初めて、前を向いて行けるのではないかと思う。
苦しい状況にある人に安心感を
もちろん、利用者の気持ちに寄り添った支援や声がけをしているケースワーカーもいる。あるケースワーカーは、性的虐待のある実家から逃れてホームレス状態で売春を続けていた20歳の女性に、「今日から生活保護が支給されますから、安心してくださいね。この辺りはおいしいごはん屋さんや居酒屋もいろいろあるから、おいしいものでも食べて、ゆっくりしてくださいね」と声をかけてくれた。
この原稿を書いている時、別のケースワーカーがColaboとつながる21歳の女性にこんな声がけをしていた。
「『役所なんて使ってなんぼ』そういう気持ちで利用してください。私のこともうまく使ってください。○○さんの幸せが一番だから。ただ、そのためには、こちらからするいくつかのお願いは守ってください。仕事をして収入があった時には申告してください。不正受給になってしまうと、後から返さないといけなくなってしまうので。めんどくさいなあとか、うざいなあと思うこともあるかもしれないけど、そこはお願いします。何か困ったことや、わからないことがあったらいつでも聞いてくださいね」と。
苦しい状況にある時、応援してくれている人がいると感じたり、支援されているという安心感を得られることが、「ここでやっていけるかも」という希望を生み、「生きていこう」「生きたい」という気持ちにつながり、それが自立につながる。
今回のジャンパーの件では、子どもたちのSOSを奪うような大人たちの姿にがっかりさせられた。困った時に頼れるものがある、使える権利があるということは安心感につながる。チャレンジする勇気や、助けを求める力にもつながると思う。社会保障制度について、「恩恵」ではなく「権利」なんだよと言える大人が増えてほしい。