必要な時に必要な量だけをそれぞれが買えば、みんなに行き渡るのに、焦った一部の人たちの行動が更なる混乱を呼んでしまった。
今も続いているマスクやアルコール消毒液の不足や、学校給食の中止を受けてスーパーの食品が一時品薄になったのも、膨らんだ不安が影響して起きたのではないか。私が関わる10代の子たちも、自分や周りの人が体調が悪いと分かると、すぐに「コロナではないか? 命に関わるのでは?」と慌ててしまうことがある。
私たち一人ひとりが、デマに躍らされないよう普段から情報源を確認することは大事だが、今回は政府が十分なリーダーシップをとれないでいることや、場当たり的な自粛や休校の要請等に振り回され、いつまでこの生活が続くのか分からないことへの不安の影響も否定できない。
政府への不信感が不安を増長
私は、今回の社会的混乱は新型ウイルスによるものではなく、為政者による「人災」であるとも感じている。政府は「責任をとる」と言っているが、どのように市民の生活を保障するのか、具体的な対策、責任のとり方を示してもらえないと安心できないし、信用できない。その不信感から、ますます不安が大きくなって、私たちの生活に影響をもたらしている。
休校要請によって高校最後の時間を奪われてしまった一人で、Colaboのシェアハウスで暮らす子が、卒業式前最後の登校日となった日の学校の友だちや先生、クラスの様子を話してくれた。先生も涙目になりながら、突然の終わりを生徒たちに告げていたこと、午後の授業が急きょ変更になり、卒業式や壮行会で歌う予定だった歌を先生たちの前でだけ発表したこと、高校生活が終わったと言われてもまだ実感が湧かないという。
彼女は、「休校するにしても、もっと早く言ってほしかった。金曜日、今日で最後と言われた時のことは一生忘れられないと思う。まだ、現実のものとして受け止め切れない」と、早めにもらうことになった卒業文集を見せてくれた。
今は、春からの新生活や就職に向けても大切な時期であるし、まだ就職や進路が決まっていない生徒への支援も必要だが、生徒たちのケアをしたくてもできない状況の学校もある。
新型ウイルスへの対策は大切だが、私は感染の恐怖以上に、市民生活への影響を想像し切れていない政権の対応に危機感を持っている。私たちの生活についてあまりにも知らない、想像できない人たちが政治を担い、私たちの生活を左右する権限を持っている。この混乱を生み続けている政府の責任は大きい。
落ち着いて冷静な判断を!
そして、この混乱に乗じて「憲法を改正し、緊急事態条項が必要だ」と、言い始める議員もいる。政府が緊急事態を宣言すれば、国会での審議を行わずに法律を作ったり、国民の権利を制限したりすることができるという大きな権力を政府に与えるというものだ。
しかし、そうした政治家たちを選挙で選んだのは私たちだ。今回の休校要請で、政治を自分ごとだと気づいた人たちも少なくないだろう。次の選挙では、私たちの暮らし、生活の実態を踏まえた判断をし、誠実で、隠ぺいや改ざんはせずに責任をとる、開かれた政治のできる人たちが多く選ばれてほしい。
また今回、見えない不安によって私たち人間はこれだけ混乱してしまうのだということも突き付けられた。こういう時だからこそ、冷静に、落ち着いて情報を判断することが大切だ。不安になっている子どもたちや、弱い立場に置かれた人が周りにいたら、声を掛け、正しい情報を分かるように伝えてほしい。もし学校が休みになった影響で、食べるものや居場所に困っている子どもがいたら、児童相談所や支援団体、地域の民生・児童委員の方などに積極的に連絡して状況を伝えてほしい。
決して弱い立場の人にしわ寄せがいかないように。「この危機を乗り越えましょう」などと呼び掛ける人もいるが、もともと苦しい生活を強いられ、耐えている人たちに、更に負担がいくことになってはいけない。こういう時だからこそ、使える支援や制度は積極的に活用していくことが大切だ。もしも新型コロナの影響で生活に困ったら、積極的に生活保護を利用してほしい。ためらわず行政に相談してほしい。
今の日本のリーダーは、何が必要か分かっていない。だからこそ、私たち一人ひとりが「困っている」「こんな支援が必要だ」と我慢をせずに声を上げなければならない。この危機的な状況を耐え忍ぶことよりも、皆が自分ごととして声を上げ、政治を変え、市民の手に取り戻していくことが必要だ。