国連特別報告者との面会
2015年10月、日本に視察に来ていた国連の児童買春・児童ポルノ・人身取引に関する特別報告者と、2回ほど面会しました。1回目は性的虐待や児童買春、JK(女子高校)ビジネスなどの性暴力被害にあった高校生二人が同行し、福祉や制度のはざまに落ちた過程、行政への意見などについて自らの言葉で伝えました。一人は入院中の病院から、もう一人は学校のテスト期間の合間に来てくれて、私でも緊張しそうなシチュエーションにもかかわらず発言してくれた二人の姿を頼もしく感じました。
国連の特別報告者からは、女子高生サポートセンターColabo(コラボ)にどんなサポートを受けたか、それをどう感じたかという質問もあり、一人が「コラボでは食卓を囲むことを大切にしていて、そこでいろんな人と出会えたことで視野を広げ、前を向けるようになった」と、私たちの活動を紹介しつつ答えてくれました。将来についての質問には「これまで良い大人と悪い大人を見てきたから、それを生かして、中学生や高校生の理解者になれるような仕事がしたい」と答えました。彼女はJKビジネスを通して性被害にあった少女です。
次に、もう一人の高校生が「あなたも同じですか?」と問われると、「私は違います」と言って、彼女が感じていることを話してくれました。「違います」と言うことは簡単じゃないけれど、そう伝えてくれたことにも嬉しくなりました。それぞれ違う形でコラボにつながってきたし、私たちもそれぞれに必要な場面で必要なサポートができれば、と思って関わってきました。
後者の彼女はコラボのシェルター利用者で、「コラボに出合うまでは民間シェルター、福祉施設、病院を転々とした後、ホームレス状態になって買春者の家やホテルで寝泊まりする生活をしていました。小学生の頃、近隣住民や学校からの虐待通告で児童相談所につながったものの、適切な対応をされず、精神障がい者のグループホームに入居するも職員からの性被害にあったり、自立援助ホームでの生活になじめなかったり、子ども・女性の保護施設では入居を断られることが続いて……。身寄りもなく、ホームレス状態で誰かのところを転々とするしかなかった時に、友達に教えられてコラボを知りました。ここでだめなら死のうと思っていました」と話してくれました。彼女は、将来の夢について聞かれた時、「私もいつか、自分のような子の支えになりたいけど、まず今は自分のケアをしたい」と答えていました。まずは自分の状況を落ち着けること。とてもとても、大事なことだと思います。
出会った時は「どうしたいかと聞かれても、希望なんてないよ」と、彼女たちは言っていました。少しずつ信頼を結び、状況を変えている今、そんな思いをどうやって伝えていくかも、一緒に考えて活動しています。
日本での現状と問題点を報告
2回目の面会は、支援機関のミーティングでした。こちらも、シェルター利用者の女の子たちと参加しました。現場で活動する団体から、児童ポルノや児童の性的搾取に関する現状や法制度について現状を報告しました。彼女たちは、児童ポルノ禁止法が改正されても、それが実行されていない現実があることなども伝えてくれました。
私はその場で、JKビジネスの実態と、買う側への規制や視点が欠けていること。しかし、規制だけでなくケアの充実が必要であること(それが不十分なまま規制だけしても、女の子たちの状況は変わらないため)について話をしました。具体的には、主として以下のようなことです。
(1)日本では子どもが親元を離れて生活するには、児童相談所を通すことが必要だが、虐待などを理由に家にいられない状況にある子どもへの理解や、性的なトラウマについての専門性が乏しい職員がおり、不適切な言動をされることや対応にばらつきがあること。開所時間も、ほとんどが8~17時30分ごろに限られ、子どもたちが暴力を受けるなどし、居場所をなくす時間帯とのずれがあること。支援者の専門性を高め、24時間受け入れ可能な体制が必要であること。
(2)児童相談所では、保護という名のもとに子どもを社会と隔絶させたり、被害にあった子どもを一時保護所で管理指導している現状がある。当事者が主体となれる支援作りが必要であること。
(3)虐待通告の件数は2014年には8万9000件近くあり、児童相談所は職員や予算も足りていない。一時保護所のスペースも不足しており、国として児童福祉に財源を投入すべきだと考えていること。また現在、児童相談所は都道府県ごとに置かれているが、自治体レベルで対応できるような仕組みや、青少年に特化した保護機関が必要であると考えていること。
(4)児童相談所だけでなく、シェルターや福祉施設でも、虐待や性被害にあった子どもや、性的マイノリティーの児童への理解の促進が必要であること。
(5)補導された子どもに対し、背景への介入や医療、教育、福祉的ケアが必要であること。
(6)加害者が罰せられないケースが多いこと。買う側に罪の意識がないこと。
(7)性的搾取に関する、学校での教育や啓発活動がないこと。
(8)日本には、子どもの性の商品化や性的搾取を受け入れる、寛容な社会が根深くあること。
国連特別報告者の会見
日本での調査を終えて、特別報告者が会見を行いました。日本における児童の性的搾取について「主な原因は貧困と男女の不平等、(その状況を受け入れる)社会の寛容性、加害者に罰を与えられない状況である。日本には包括的な戦略が必要だ」と警鐘を鳴らしました。日本には様々な児童搾取の形態があること、JKビジネスなど段階的に女子学生を性的搾取する構造があることなどを指摘し、「重篤な事態につながりかねないものが多く含まれている」と指摘しました。会見の様子は、国連のホームページ(http://www.unic.or.jp/news_press/info/16416/)から閲覧できます。
その会見の際、報告者が日本の現状について「女子学生の13パーセントが、売春などの行為をしているとも言われている」と、発言したことが注目されました。この発言について、日本の外務省は撤回を要求。菅義偉官房長官は「13パーセントという数値、その情報源、根拠とも極めて不明確であります。わが国としては、到底受け入れられるものではなく、不適切・不適当だと考えています」と反論しました。国連は「数値を裏づける公的かつ最近のデータはなく、13パーセントという概算への言及は誤解を招くものだった」と回答し、日本政府はこれを撤回と受け止めています。
今回、国連の特別報告者が根拠を示せないまま数値についてコメントしたことは、私も問題だと思っています。調査がこういう形で信頼性を失うことは残念ですし、しっかりした報告書を出してほしい。しかし、ここで数値のことだけが問題とされることは、本質を見失うことにつながるとも考えています。そうした状況におかれる小・中・高校生がいることは事実であり、子どもたちがおかれた状況を改善するための対策について、私たちは議論を深めなければならないと思うからです。
日本政府の対応
日本政府は「政府としては引き続き、客観的データに基づく報告書作成を求めていく」とコメントしていますが、児童買春・児童ポルノなどの問題に、政府として向き合う姿勢が見られないことが残念です。