先日、一人暮らしを始めた20代前半のA子から、「しつこい男の新聞勧誘員がきて断れりきれなかったんだけど、どうすればいい?」と連絡があった。いつもならインターホンがなった時には、チェーンロックをかけてから玄関ドアを開けるようにしていたが、その日は郵便局に荷物の再配達を依頼していたため、うっかり開けてしまったらしい。
勧誘員「こんにちは。○○新聞なんですけど、今、何か新聞は契約していますか?」
A子「してないです」
勧誘員「新聞の契約は考えていませんか?」
A子「考えていません」
勧誘員「一人暮らしですか?」
A子「はい」
この質問をされてから、A子は焦りを感じ始めた。この後も仕事やプライベートについて質問され、自分の生活について知られたくないけれど、答えないとその場を乗り切れないと思ったという。
勧誘員「おいくつですか?」
A子「22です」
勧誘員「僕は30なんですよ。で、半年と1年の契約を選べますが、どちらがいいですか? とてもお得なので」
A子「お金ないので……」
勧誘員「仕事してないんですか?」
A子「まだ引っ越してきたばかりなのでしてません」
勧誘員「新聞っていくらだと思います?」
A子「3000円くらいですよね?」
勧誘員「そうなんです。とてもお得なんですよ」
A子「お金ないので、いりません」
勧誘員「洗剤もイベントチケットもたくさんつけますからお願いしますよ」
A子「いや今、料理中なので帰ってください」
玄関ドアを閉めようとするが、勧誘員の男は足で押さえてきた。A子は冷静を装いながら、内心パニックになっていたという。男はさらに話を続ける。
勧誘員「絶対後悔させないので! お願いします。好きな音楽アーティストはいますか?」
A子「います」
勧誘員「誰ですか?」
A子「〇〇です」
勧誘員「えー、僕の知り合いに、その人のプロデューサーがいるんですよ」
A子「そうですか」
勧誘員「反応、薄いですねぇ」
A子「本当かなと思って」
勧誘員「あと、○○っていうバンドは知っています? 僕友達なんですよ。契約してくれたら、野球のチケットやテーマパークの入場券もあげられるんですよ」
A子「いりません。料理中なので帰ってください」
勧誘員の男はA子にテーマパークの入場券を12枚押しつけ、「一度契約してみて、いやになったら解約すればいいですから」と言った。「いりません」と券を返そうとするが、受け取ってくれなかったという。
勧誘員「ちょっとの間だけでもいいのでお願いしますよ」
A子「契約したいと思った時に、こちらからご連絡したらいいんですよね?」
勧誘員「いやいや、それだと僕の売り上げにならないんで困りますよ。ここにサインだけしてくれればいいですから」
A子は「何度も断ったのに、あまりにしつこいから。怖くて早く帰ってほしい、この時間が早く終わってほしいと思って、サインしてしまった」という。住所、名前、電話番号を契約書に書くと、新聞勧誘員の男は握手を求めてきた。拒否することで暴力を振るわれたり、家の中に入ってきて性被害にあうのではないかと恐怖を感じていたため、仕方なく応じた。男は「手が温かいですね」と言い、「もう一度握手させてください。本当にありがとうございます!」「最後にもう一度!」と計3回もの握手を求め、彼女の腕も触った後、洗濯用洗剤を10個ほど置いて帰っていったという。
A子は男の手が冷たかったことをかわいそうに思い、玄関にあった使い捨てカイロを渡した。そんな状況でも相手を気遣ってしまう優しさをもっている。そこにつけ込まれてしまったことが悲しい。
翌日、A子に会うと「洗剤を見るだけで、勧誘員の顔を思い出すので気持ち悪い。また家に来るんじゃないかと不安だし、解約したらストーカーになったりしないかもっと怖い」と青ざめていた。洗剤は「誰か事情を知らない子か、気にしない子に使ってもらって」と、Colabo(コラボ)に寄付してくれた。
さらに話を聞いてみると、彼女が使い捨てカイロを渡した後、新聞勧誘員の男は「一人暮らしを始めたばかりなら心細いでしょう? あそこにご飯を食べにいきたいとか、スカイツリーに行きたいとか、そういうことがあったら連絡してください。案内しますんで」と、契約書の控えの隅に個人的な電話番号を書いて渡し、「僕がいろいろ教えますから、不安なことがあったらいつでも連絡ください。後で必ず電話くださいね」と言ってきたという。
また、契約書にサインした時に「生活保護の人でも、こうすると契約してくれるんですよ」とも言ったという。彼女は暴力から逃れて新生活を始めている状態であり、精神状態からもすぐに働くことが難しい状況にあるため、生活保護を受給していた。そのことを伝えてもいないのに「なぜ知っているの?」と怖くなったという。
「私が断れなかったから、悪いんだよね」
彼女はポツリポツリと話を続けた。「そんなことない! 誰でも早口で強引に話を進められたり、玄関のドアをふさがれたり、体を触られたりしたら怖いと感じる。ましてやトラウマや精神的な不安がある中で、よくその状況を乗り越えたね」と伝えた。
近くでは、Colaboとつながる、もっと若い年齢の女子たちも生活をしている。今後、同じようなことをされては困るので、新聞本社に私から電話をすると「読者センター」につながれた。おそらく読者センターはクレーム対応を担当する部署だと思うが、ここからがまたひどかった。
若い女性に対して断ってもしつこく契約を迫り、不安を感じさせるようなやり方で契約をさせたこと、個人情報まで渡されていることなど、今回あったことを伝え、クーリングオフしたい旨を話した。
しかし新聞社からの謝罪は一切なく、「うちは発行本社という形で新聞を卸しているだけですので、クーリングオフの件は販売店から連絡をさせます」とのこと。A子は精神的にもダメージを受けており、不安がっているので販売店からの直接の謝罪や電話での連絡はしないでほしいと伝えるが、「読者センターとしては、そこには関与していないし責任をもてない。クーリングオフも直接販売店に」と言われてしまった。途中から、担当者の男性が怒鳴り始め、「こんなことでお客様が精神的に不安定になるなんておかしい」とあざ笑い、最後には一方的に電話を切られてしまった。
仁藤「新聞社さんからクーリングオフしてもらったり、事実を調査して、もう家に来ないことを確認して報告するということはできないのですか?」
担当者「うちは発行本社という形で新聞を卸しているだけ。それぞれの販売店さんが、委託で販売しているわけです。卸しているのは新聞社ですが、委託の業務契約をしているだけです」
仁藤「委託先がそういうことをやっているということに関しては、責任はとれないということですか?」
担当者「あくまでも販売店の所長がエリアの責任という立場なので」
(ここから大きな声で怒ったような口調になる)
仁藤「それはわかっているのですが、新聞社として今回のことを調査し処理していただくことはできないのですか?」
担当者「販売店からです。読者センターが調査をしたり、お客様に電話をおかけすることは一切していません。あくまでも販売店の責任ですから。責任者から連絡を入れますので」
仁藤「新聞社としての対応、調査や謝罪はできないということですか?」
担当者「謝罪というのは?」
仁藤「一人暮らしの若い女性を怖がらせて……」
(話の途中で怒鳴るようにさえぎられる)
担当者「ですから、それは販売店の所長にこちらから伝えますので! それは販売店の教育がなってないという話なんですよ!」
仁藤「新聞社としてはどういう指導をされるんですか?」
担当者「事情を確認します」
仁藤「事実だったらどうするんですか?」
担当者「そういうことはいかん。あくまでも読者のところへお詫びにいきなさい、という指導をします。
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