竹内 その間に空気抵抗を受けてうまく減速し、回転を調整しているのかもしれないですね。体勢を整える時間もあるでしょうし。いずれにしてもベランダからの落下はとても危険なので、我が家ではネットを張っています!
物理学的な猫の魅力は物体としてのしなやかさ
加藤 竹内さんの猫エッセイによく「シュレ猫」というのが出てきますね。物理学の「シュレディンガーの猫」からということですが、どういう意味合いで「シュレ猫」って呼んでいるんですか?
竹内 「シュレディンガーの猫」というのは、物理学者シュレディンガーの量子力学の思考実験、つまり脳内シミュレーションです。重ね合わせの例えに使われますが、50%の確率で猛毒が出る装置が付いた箱の中に1匹の猫を入れた場合、確率的に「生きた状態」と「死んだ状態」が重ね合わせになっているという考えです。すごく簡単に言えばその二面性と、本物の猫が持つ二面性を引っ掛けて僕は「シュレ猫」と呼んでいます。今はこうしてくつろいでいる猫が、突然、豹変することもあるし、猫にはツンデレなところもある。猫の感情の移り変わりが面白いと思っているんです。
加藤 なるほど、そういうことだったのですね。竹内さんのご専門の物理学的な観点から猫の魅力を語るとしたら、どんなところですか?
竹内 物体としてのしなやかさですかね。ネコ科全般に言えることですが、優雅なしなやかさは流体力学に結び付きます。例えば最速で走る必要があるチーターの体は、スポーツカー的なシェイプですよね。空気抵抗を減らすために体も流線形に近づき、それによってしなやかな動きができる。そこが美しいですね。自然界には定数があり、生き物の体は黄金比になっているので、それにうまく当てはまっているのでしょうね。
加藤 効率的であるとは思うのですが、それを美しいと思わせる仕掛けがあるということなんですか。
竹内 物理は数学を元にしているわけですが、そこには自然界の定数が入ってくる。その観点から見ると自然な形に引かれるというのはあると思います。
ソファは消耗品。猫を追うより人が工夫せよ
加藤 多頭飼育での猫達の関係性はわかりましたが、大変なことってありますか? 例えば災害時の避難のこととか考えていますか?
竹内 考えています。僕一人の時に避難が必要になったら、背中と前に1匹ずつ、あとは両手に1匹ずつ。
加藤 すごいですね。重そう(笑)。
竹内 妻がいる時だったら、もちろん分担します。
加藤 4匹だと食事も大変そうですね。同時にあげるんですか?
竹内 場所や部屋を分けて同時にあげますが、そんなに大変ではないですよ。コタロウとナナは食事の内容が違うけど、それぞれ自分のごはんを食べていますし。あ、でも、猫トイレは指定できないですよね。頭数+1が理想的だというので、全部で5つ用意してありますが、これは誰専用トイレって決まらないですよね。サイズもいろいろあるのに、みんな小さいトイレばっかり使いたがるし。少しでも汚れていると、ナナはトイレの外にウンチをしてしまうんです。頻繁に掃除しているんですけどね。
加藤 猫って前足が入るとトイレだと認識するみたいで、後ろ足が入ってないのにしちゃうことがあるんです。うちもはみ出ていることがあります。
竹内 なるほど! そういうことか。その猫トイレの奥に仕事部屋があるんですが、ドアを開けてこのリビングに戻ってくる時に、「うわぁ踏んだ」ってことが何度かあって、ウンチ問題は科学的に解決できていません(笑)。あと、コタロウが玄関の僕の靴の上にオシッコをしていたのもショックでした。てっきりモモちゃんだと思ってたけど、とんだぬれぎぬを着せてしまった。
加藤 うちは推定9歳の猫が夜中に鳴くし、枕元でオシッコをしてしまうので、仕方ないから私は枕元にペットシーツを敷いて寝てるんです。
竹内 それは大変。でも、猫と暮らしていると基本的に対策を考えますよね。何か起きたらその都度、対策を取り続けるみたいな。
加藤 そうそう。人間の側が工夫しますね。猫を何とかしようとイライラするよりも、工夫をした方がずっと楽。
竹内 亡くなったニャー君は羽毛布団の上でオシッコしてました。5回くらいクリーニングに出しましたよ。
加藤 羽毛布団にやってしまう猫、いますね。どんなに洗っても買い替えてもダメ。なんか羽毛に反応するみたいですね。だから対策を聞かれたら、「羽毛布団をやめてください」と答えるしかない(笑)。
竹内 そうなんですね。あと爪研ぎ問題もありますね。ソファも何度も替えましたが、やられても惜しくないように良いソファを置くことをやめました。ソファは消耗品ですよ(笑)。あとはバッグ。けっこう良いカメラバッグを買ったんです。でも、なんか爪の引っ掛かり具合がちょうど良かったみたいで……。
加藤 私も高いバッグを衝動買いしたら、次の朝、爪研ぎ器にされていたことがありました。でもそういう時って猫を叱れないんですよね。
竹内 相手が人だったら、ミスを責めちゃったり怒ったりすると思うんですが、猫なら仕方ないかなって(笑)。うちの子どもがテーブルの上に乗ったら叱るけど、猫がテーブルに乗って何かをひっくり返しても叱ることはないですね。
加藤 食器に猫のしっぽが乗っていたら、どけるだけですよね。
竹内 そうそう、普通にどけるだけ(笑)。
加藤 私も人にやられたらけっこう許さない方ですが(笑)、何で猫だと許せるんだろう。子どもは叱っても、猫は叱らない。これって子どもには将来があるからかしら?
竹内 それはありますね。子どものしつけは、家の外に出て人間社会で生きていく上で必要ですが、うちの猫達は一生我が家にいるんだから、僕達が許せばそれでいいかと。爪研ぎは猫の習性でやってるわけで、悪気があるわけじゃないから仕方ないかな~みたいな。諦めですね。
加藤 竹内さんから「諦め」ってフレーズ、今日、何度も聞いたような(笑)。