加藤 私もそうです。猫が死んだら、1カ月以内にまた次を飼っちゃいますね。
内藤 僕もそれでいいと思います。生きものなんですから、見送るのは当たり前のことで、それは「死」を引き受けることだと思うんです。生きることも死ぬことも違いはなくて、いつかは同じことになる。
加藤 そういう関係はいいですね。内藤さんみたいなクールな考え方もいいと思います。
生きものを看取る経験をするのは大事
加藤 生きものが側にいることが本当に当たり前になっているんですね。内藤 子どもの頃からそういう環境に置いてくれた両親には感謝しています。いつも身近に生きものがいて、世話をしたり看取ったりする体験をさせてくれた。自分の子どもにもそうであってほしいと思ったから、娘が保育園に入るくらいになったときに猫を飼ったんです。それが先代のアビシニアンの「ホッチナー」。一人娘なんですが、ホッチナーは17年生きましたから、彼女が5歳から22歳まで、青春のほとんどを一緒に過ごしたことになります。
加藤 内藤さんのご両親がしてくれたことをお嬢さんにもしてるんですね。
内藤 そうですね。ホッチナーが亡くなった日、家内は仕事で出かけていましたが、たまたま僕と娘が休みで家にいました。腎臓病が進行して、動物病院に入院していたんですが、心停止に近い状態で病院から電話がかかってきて、急いで駆けつけました。僕たちが到着するまでなんとかもたせてくれていたようですが、最期に生命維持装置を止める決断をしたのは娘なんです。彼女の意思で「もうここでおしまいにしてください」と。
加藤 それはすごく立派ですね。
内藤 強い子だと思いました。朝亡くなって夜までずっと二人で一緒にいて、その日のうちにペット霊園を探してお葬式をして火葬して見送りました。次の猫、ニュイとチャイが来たのは早かったですよ。僕は翌日あたりから地方ロケで東京にいなかったんですが、1週間後に帰ってきたら2匹がもういました。それでいいと思います。
加藤 やっぱり最期を見た人は強いと思います。看取るって本当に大事なんですよね。
不自由なことも多いけど、与えられるものはそれ以上に大きい
内藤 生きものと暮らすのって非常に面倒くさいことですよね。当然のことながら排泄など汚い部分もあるし、家具もボロボロになるし、死んじゃうし。そんなふうに不自由なことそのものが、生きものと一緒に暮らすということだと思うんです。人間の世の中だって、いろんな人がいて、自分と違う人も認め合いながら生きていかなくちゃいけない。その一番小さな単位が、今はあえて「ペット」という言葉を使いますが、ペットを飼うことだと思うんです。大げさに言えば、これって民主主義の基本じゃないでしょうかね。いろいろな考えを受け止めて考えるのが民主主義の原型だと思います。加藤 なるほど。民主主義って表現、いいですね。
内藤 死も含めていろんなことを引き受けること。不自由で面倒くさいことも多いけど、その代わりに与えてくれるものもとっても大きい。
加藤 人間の子どもも手がかかると言いますが、ヒトという同じ種ですもんね。
内藤 犬や猫は人間とは種が違うのでもっとわからないですよね。人間だったら赤ちゃんのうちは言葉が通じなくてもいずれ話ができるようになる。でも、犬や猫は一生言葉では通じ合えないから、「想像力」で暮らすわけです。彼らが何を考えているかを考えることが楽しい。それを考えないと犬や猫にとってかわいそうなことになりませんか? 寒くないかとか暑くないかとか、おなかすいていないかとか、つねに相手の立場に立つことが重要だと僕は思うんです。
加藤 確かに想像力は大切ですね。ご自宅では猫はどんなふうに過ごしているんですか?
内藤 うちの猫たちは、もう勝手気ままに生きています。家の中はすべてOKで、立ち入り禁止エリアもありません。自由に過ごせるようにしています。
加藤 テーブルの上に乗ってももちろんOKですね?
内藤 はい。テーブルの上に乗ろうがベッドの中に入ろうが自由です。だから、食べ物の中に猫の毛とか入っててもまったく気にならないですね。だって、猫がいれば入っちゃうでしょ(笑)。決めたことと言えば、トイレの場所くらいですかね。猫たちにとって危ないこと、たとえば、お風呂場のドアを開けておくと、猫が水の入っている浴槽に落ちたら危ないから閉めておくとか、人間側が注意することはあるけれど、彼らがやろうとしていることについて禁止事項はないです。
加藤 リスクを回避する気遣い、想像力がちゃんと働いていますね。
内藤 かといって彼らのことをすごく優遇しているわけでもないですよ。僕が座りたいところに猫がいたら、「どけ」って言います(笑)。座りたいけれど猫がいるからどけられないという人の気持ちもわかりますが、僕は序列はないと思っているんで。
加藤 同じところに同等に一緒にいるっていうのがいいんですよね。
内藤 いろいろな関わり方があっていいと思います。僕は淡々と猫と一緒に暮らしています。
加藤 そこに楽しさを見いだしているということですね。おっしゃっていること、よくわかります。最後に、このコーナーの締めとして皆さんに聞いているのですが、内藤さんにとって猫って何ですか?
内藤 ひと言で? うーん何でしょうか? 仲間という言葉では軽いし、やっぱり一緒に生きていくものだと思います。友達でも後輩でも先輩でもないし、かといって僕に言わせれば家族というのともちょっと違う。異種だけど一緒に生きていくもの。それに尽きますね。
加藤 ありがとうございました。