本連載前回の「なぜ、『妊娠させた男』の罪は問われないのか」に引き続き唐突だが、男性に問いたい。
ある日突然妻に、「あなたのしていることはDVだから加害者更生プログラムに行ってほしい」と言われたらどうするだろうか?
ちなみにあなたは一度だって妻に手をあげたことはない。というか女性に暴力をふるうなんて最低最悪のクソ野郎だと思っている。それなのに、よりによって自分が「加害者」と言われ、犯罪者でもないのに「更生プログラム」に行けと言われるなんて……。
戸惑うあなたに、妻は「行ってくれないと離婚する」の一点張り。一体、なんなんだ……?
さて、こんなことを突然書いたのは、DVをめぐり、非常に考えさせられる対談を聞いたからだ。
それを紹介する前に、私がずーっとモヤモヤしていることについて書いておきたい。それは、この国の「夜の世界」をめぐるもろもろだ。
例えば、日本は世界でも有数の風俗大国であるということ。これほどに、男性が安全に、安く買春できる国はないというのが世界の常識であること。風俗だけでなく、キャバクラなど接客業も異様なほどに充実していること。その中には、「男同士の親睦を深める」ための「おっぱいパブ」なんかも存在していること。
そんな「男向け娯楽」の多さを思うと、女性をあらゆるやり方で商品化し、男性に「癒やし」を提供するこの国の「男社会」の盤石さに、ため息をつきたくなるのは私だけではないはずだ。
なぜなら、その逆の「女性が安く安全に買春できるシステム」なんてないし、女同士の親睦を深めるための「おっぱいパブの男版」(どういう名前になるんだろう? 怖くて想像できない)もない。「ホスト(ホストクラブ)があるだろ」と言っても、サラリーマンでも行けるキャバクラと違い、女性の平均年収293万円(女性・男性共に給与所得者 : 国税庁、2020年)では、キャバクラよりずっと高いホストになど行けるはずもない。ちなみに男性の平均年収は532万円。また、働く女性の半分以上が非正規だが、こちらの平均年収は153万円。
別にホストに行きたいわけでも買春したいわけでもまったくないが、そういう非対称性が話題にすらならないところに、根深い何かがあるのだと思う。
そうして男性議員が銀座のクラブに行ってもコロナ禍でない限り話題にもならないものの、女性議員が歌舞伎町のホストに行ったら、コロナ禍以前でもメディアは騒ぎ立てるだろう。
一方、自分の妻や彼女がホストに行ったら怒る男性は多いと思うが、では自分がキャバクラに行くことを妻や彼女に咎められたらどうだろう? 「理解がない」などとキレ、「男同士の付き合い」で「仕事のために必要」という大義名分を持ち出してくるのではないだろうか。
それだけじゃない。この国にはずーっと昔から、同僚との付き合いで風俗に行くことはおろか、海外へ買春ツアーに行くことさえ妻に容認させるような業界も一部存在している。
が、表立っては何も言わない場合でも、多くの女性は、彼氏や夫が「女性が接客する店」に足繁く通うことを快くは思っていないはずだ。しかし、「夫にキャバクラに行ってほしくない」なんて口にすれば、時に女性からも「それくらい仕方ないよ」と言われたりするだろう。
でも、キャバクラといっても、身体的な接触を伴う接客がなされる店だったら? もしくは、風俗だったら?
どこまでがOKでどこからがアウト案件なのか、判断に悩む女性も多いのではないだろうか。「自分に理解がないだけでは」「許容範囲が狭すぎるのでは」「仕事のためなら仕方ないのでは」などと悩む言葉もよく耳にする。
さて、そんなモヤモヤに対して、最近、ものすごく明確な答えをもらった。
それは、ある政党の決起集会でのことだ。
ある政党とは、山本太郎氏率いるれいわ新選組。衆議院選挙を間近に控えた10月9日、東京・豊洲で決起集会が開催され、貧困問題についてのレクチャー役を依頼されて登壇したのだが、この日、非常に貴重な対談を聞くことができたのだ。
対談に登場した一人は、衆議院議員(当時)の高井たかし氏。高井氏は10月にれいわ新選組に加入したのだが、20年4月、所属していた立憲民主党を除籍になっている。その理由は、緊急事態宣言中、セクシーキャバクラに行っていたことが週刊誌で報道されたから。
この高井氏がなぜ、れいわ新選組に入ったのかと言えば、経済政策で方向性をともにする山本太郎氏が誘ったのだという。その際、「やり直しができない人生なんてない。どんな失敗をしてもやり直しできる日本を一緒に創りましょう 」と言われ、高井氏は号泣。続けて、山本氏は言ったという。
「でも、やり直すためには自分の過ちを心から反省し生まれ変わらなければだめです。そのために『DV加害者プログラム』を受けてみませんか?」
この言葉を聞いた高井氏は、「DVを行ったわけではないのに…」という気持ちがあったという。しかし、プログラムを受けることにした。
このプログラムでコーディネーターをしていたのが、この日の対談相手である吉祥眞佐緒(よしざきまさお)氏。長年DV問題に取り組む女性であり、加害者プログラムで多くの加害者更生を支援してきた人である。また、山本太郎氏に、国会での質問づくりのため、DV問題をレクチャーしてきた人でもある。