そんなふうに、若者が「弱者」とされていく過程で、だめ連の活動がメディアに取り上げられることもなくなっていった。だめ連は、今も活動を続けているのだろうか?
「なにげにやってますよ。だから今年、だめ連始めて29年ですね。俺なんか、日本がまだ貧乏じゃない時に自分から降りたパターンだけど、その後の人は、否応無くそうならざるを得ないみたいなところがありますよね。今こそ、意識が重要っていうか、金持ってる奴が偉いみたいな価値観あるけど、そういうのから自由になるだけでも随分楽になる。貧乏なことは恥ずかしいことではない。あと、構造的な問題もある。今、コロナで仕事や家がなくなった人もたくさんいるけど、国は救済してくれないことが明らかになりましたよね。そもそも資本主義は人を裏切り、見捨てるんです。それで儲けてるのは確信犯の悪い奴らだから、誰も幸せにならないシステムに見切りをつけることは重要だと思います」
そんな神長さんは20代の頃からだめ連的生き方を貫いてきて、今、54歳。99年に出た『だめ連宣言!』(作品社)のプロフィールには「生活費は月5万円」とある。今はどのような生活なのだろうか。
「今、月6万か7万で生活してます。1年前まで週に2日働いてたんだけど、今は週に3日働いてます。家賃は5万円で、一緒に住んでるパートナーと半々で。スマホは一番安いのにしてるし、ものは基本的に買わない。旅行行ってもテント張って自炊したり。電車賃もかかるから歩いたり自転車乗ったりですね」
今回、私が神長さんに話を聞きたいと思ったのは、彼がいつもニコニコ楽しそうで大勢の友人たちに囲まれて常に幸せそうだからということがある。30年近く一度も就職せず、月5万〜7万円でこれほど幸せそうに生きている人を私は見たことがない。その上、彼のパートナーがまた魅力的で神長さんと価値観も共通していて私の大好きな女性なのだ。ちなみに神長さんが週に3日しか働かないのは、「賃労働」以外の有意義な活動に忙しいからだと私は思っている。彼の周りには、賃労働なんてしてる暇がないほど面白い遊びや活動がたくさんあるのだ。
「最近は、オリンピック反対デモが忙しいですね」
ちなみに生活費を稼ぐ仕事も厳選している。一つは障害者介助。これは週1日で7時間の夜勤。もう一つは学童保育。1回3時間で週2日。どちらも目の前の人の役に立つ、なくてはならない仕事だ。このように、自分の納得する仕事で働き、週の労働時間は13時間。これくらいの労働時間なら、ストレスなく、仕事も嫌にならずに長く続けられそうだ。
「今の仕事は、やってることもいいことだし労働環境も悪くないからいいですね。だいたい仕事なんて、悪いことが多いですからね。南側から搾取したり、環境も壊してる。消費しない、商品生産しない、労働をしすぎないっていうのが一番エコですからね」
まったくもってその通りだ。しかし、将来や老後が不安になったりしないのだろうか?
「一回不安モードで考えようとした時期もあったんですけど、結局不安になっても何も変わらないし解決しない(笑)。やっぱり、開き直って楽しくやったほうがいい。それに老後の不安って言っても、いつ死ぬかわかんないし、サラリーマンの人とか、70過ぎたら好きなことしようって思ってるかもしれないけど、それよりも、今好きに生きたほうがいいですよね。だから俺、会社やめてから、人生一度も後悔したことないですよ」
そんな神長さんに「寝そべり族」が満を持して2021年の中国に出現した感想を聞いてみた。
「納得というか、当然だなって。競争社会、やってられないじゃないですか。いっぱい働いて出世してお金持ちになるのが幸せみたいな感じだけど、そんなのやるのも大変だし、幸せでもなんでもない。競争させられて、人からの評価ばかり気にするっていうのはだめをこじらせてる問題ですよ。あの人より収入多い、タワマンに住んでるとかどうでもいい。それより、生きてる時間をどう過ごすかのほうが問題です。たった一回きりの人生なんだから、資本主義が押し付けてくる常識から抜け出して、もっと自分が楽しんで幸せになること考えたほうがいい。だから寝そべり族みたいなの、もっともっと出てきてほしいですね」
ちなみに韓国では、韓国版・だめ連というべき「ペクス連合」というグループがある。ペクスとはいわゆるニートのことで、1998年に結成。だめ連とは98年に対談し、『だめ連宣言!』にもその模様が収録されている。そんなペクス連合のチュ・ドッカン氏は私も友人で、コロナ以前はしょっちゅう来日するのでよく一緒に飲んでいた。「ペクス連合」の主張も、少なく稼いで少なく消費する、必ずしも労働しなくていいのでは、というもの。対談では、全世界の「だめ・ペクス連帯」「だめコミンテルン」ができるのではないかと98年の時点で予言されているのだが、23年経って、とうとう中国勢が「寝そべり」に打って出たわけである。
ということで、なんとか寝そべり族と連絡をとりたいのだが、すでにコンタクトしている人がいるらしいという噂もある。ちょうど私の本の中国での出版も決まったので、中国の人々とともに、そして世界中の「競争から一抜けた」人々とともに、存分に寝そべりたい。
最後に。『だめ連宣言!』には、著名人らによる以下のメッセージが裏表紙に掲載されている。
「だめ連は、21世紀の当たり前!」(田中美津)、「だめ連は、グローバル・スタンダードだ!」(上野俊哉)。
やっぱりだめ連って、いろいろ時代を先取りしてたよな。今、改めて思っている。