それにしても、本当に、50代を迎えようというのに、なぜ体力バリバリの30代並みの仕事量をこなさなければならないと思っていたのか。「同業者は基本全員がライバル」という世界ゆえ、私には、仕事との関わり方について語れる人は一人もいない。仕事の仕方や向き合い方までが究極の企業秘密というフリーランスの世界である。そんなことを誰とも共有しないのが当たり前と思ってきた。
しかし、年々、いろんなことがキツくなっているのも事実だ。だいたい23年間、一度も休まずに毎年最低1冊は本を出すということだってかなりの偉業である。もう、誰も褒めてくれないから自分で自分を褒めるしかないけれど、なぜそれが続いてきたかと言えば、「年に1冊も出せないなら生きる価値がなく自殺するしかない」とどこか本気で思っているからである。常日頃、人間の生存は無条件に肯定されるべきなんて言ったり書いたりしてるくせに、自分に対してはまったくそれを適用していないのだ。なんなんだこの矛盾。こんなんじゃ、自分があんまりにもかわいそうじゃないか。
「あれから一年が経ち……」という最後の章で、花房さんは〈自分を大切にしないと、人はわりと簡単に死んでしまうということが、やっとわかった〉と書く。
本当にその通りだ。私が私を大切にしなければ、いったい誰が大切にするだろう。私しか私を大切にできないのだ。
そう思う私の傍らには、生まれて1年の猫。
やわらかくあたたかい命を撫でながら、この子の寿命までは元気でいなくてはと今、改めて決意している。