ちょうど試合のあった5月28日、日本の出入国在留管理庁は、国内にいるミャンマー国籍者が在留の継続を希望する場合、在留と、さらに就労を認めるという措置を下した。クーデターを起こした国軍が支配する情勢を鑑みて、緊急避難的な対応だというが、国軍と親和性の高い日本政府であるが故にいつ措置が解かれるのか、不安を口にする在留者も少なくない。人道援助のためには、暫定的ではなく、生活者として長期的な将来も描ける対応が望まれる。
そして6月3日、NUGはついにロヒンギャに対してミャンマー国民として正当な地位を与えることを発表した。軍事政権打倒への協力を求めると同時に、政権奪回後にはミャンマーの市民権を付与し、母国への帰還を許可するとしたのである。長らくロヒンギャを無国籍の立場に追いやって苦しめてきた1982年制定の「ビルマ市民権法(国籍法)」を変更することも確約された。ロヒンギャにとってはまさに悲願であった。
ロヒンギャヘイトに屈しなかったアウンミャッウインの店はまた活気づくに違いない。
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6月16日深夜。3本指を出して軍政に抗議したピエリアンアウンはチームメイトと乗る予定であった帰国便に搭乗せず、日本に残る道を選択した。関西国際空港の大阪出入国在留管理局(以下、入管)に保護を求め、入管もこれを認めたのだ。関空での本人の囲み記者会見の通訳をしたのは、アウンミャッウインだった。弁護士に帰国をしたくないという選手の意思を知らせ、終始サポートしたのは、この「ミャンマービレッジ」の店主であった。
タン・シュエ
1933年生まれ。1992年から国軍最高司令官を務め2011年に政界を引退した。
キン・ニュン
1939年生まれ。1983年から国防省情報総局局長に就任。2003年から首相となったが2004年に解任された。
臨時亡命政府
ビルマ連邦国民連合政府ともいう。本拠はアメリカに置かれた。2012年解散。
国民統一政府
クーデター後の2021年4月、NLD議員を中心とした民主派が新たに結成した政府。ただし国軍は国民統一政府を承認していない。
ICJ(国際司法裁判所)の法廷
2019年11月、イスラム諸国の「イスラム協力機構(OIC)」の代表として、アフリカのガンビアがミャンマー政府を提訴して開かれた法廷。ガンビアは原告として、ロヒンギャへの迫害が国際条約で禁じられる「ジェノサイド」だと主張した。ジェノサイドにあたるかどうかの判断には今後数年を要するとみられているが、2020年1月、ICJはロヒンギャの弱い立場を鑑み、ミャンマー政府に仮保全措置として、ロヒンギャへの迫害行為を防止するためにあらゆる方策を講じるよう緊急命令を下した。