「そう思います。AAは連邦制についても言及をしているのですけど、ただ本当に連邦制に賛成であれば、国民統一政府には入っているはずや。1人も入っていないということは、少数民族アラカンにはビルマに対する恨みや妬みがまだ残っているのでしょう。かつてアラカン王国という独立国を持っていただけに、分離して民族自決をしていきたいという意識が高いのでしょう」
――一方でロヒンギャはミャンマーの一員になりたいという悲願を持っています。
「ロヒンギャは、かつて自国を形成したことがなく、自分たちの王様がいなかったので、このミャンマーの中にいて、自分たちを国民として民族として認めてほしいというメンタリティがあるんやね。しかし、NUGはロヒンギャに対しては一緒にやろうと声さえかけていません。我々は兄弟だと言いながら」
――そこが複雑です。現在、国軍がクーデターによって興した軍事独裁政権にNUGが対抗しているわけですが、アラカン族とロヒンギャの不参加というラカイン州の問題は大きく影響して後々まで尾を引いていくのではないですか。
「私は、もう人生は短いんやから、はっきりさせるしかないやん、と言っています。NUGはアラカンに対して『あなたたちは独立を考えていますか?』と、単刀直入にはっきり聞くべきやと思います。『いや、考えてまへん!』と答えが返ってきた時には、『じゃ、対話して連邦制を作ってミャンマー軍事政権を倒しましょう』とはっきり言ったほうがいいんですよ。はっきり聞かないし言わないから、ラカイン州のメンバーについてはまだ固まっていない。ロヒンギャに対しても明確じゃないんです。そこはまだまだ課題ですね」
――ロヒンギャと和解すべきだとNUGに対して提言をしているというラ・ウーさんはビルマ民族ですか?
「ビルマ民族です。ラ・ウーさんと私の意見の違いももちろんあるんですけど、私に期待もしてくれているので、頻繁に連絡を取り合って情報を交換しとります。実は2月1日の軍事クーデターも彼は予測していました」
ここで、アウンミャッウインは嬉しい提案をしてきた。
「オーストラリアとはほとんど時差もないし、今、彼と連絡がつきますよ。直接、聞いてみますか?」
異論があるはずがなく、大阪とメルボルンを結ぶオンライン取材が可能となった。店内のWi-Fiに接続したスマートフォンでアプローチすると、すぐに繋がった。
90年代民主化の闘士、ラ・ウーへの取材
ラ・ウーは政治亡命したビルマ民族出身のミャンマー人である。今年4月で70歳を迎え、現在はオーストラリアのメルボルンで暮らしている。1990年の総選挙ではNLDの国会議員として選出された。しかし、この総選挙ではアウンサンスーチーが率いるNLDが大勝したものの、軍政が選挙結果を認めなかった。まさに今回の軍事クーデターの論拠と同じである。軍政は独裁を続け、スーチーは自宅軟禁におかれた。このミャンマーの暗黒時代の中で、ラ・ウーは1990年12月、NLDの議員らとともに臨時亡命政府(NCGUB)を結成し、労働大臣の任に就いた。1991年1月にはカレン民族の武装組織であるカレン民族同盟(KNU)の本部に接近し臨時亡命政府への支持を取りつけた。
しかし、1996年にキン・ニュン率いる当局の手が伸び、国防省情報総局(OCMI)によって息子が逮捕された。翌年、ラ・ウーは娘2人と妻をオーストラリアに逃がし、自身はKNUの実効支配地域に戻って活動を続けたが、いよいよ生命の危険を感じて、2006年に妻子の住むオーストラリア、メルボルンへ渡った。その後も国外からNLDをサポートし続け、スーチーが復権をしたのを見届けた。かつての臨時亡命政府の重鎮として現在でも民主化勢力に大きな影響力を持つと言われている。
――ラ・ウーさんは今回の軍事クーデターを予測していたということですが、それは何を根拠にしていたのでしょうか。
「2020年の総選挙の結果が出た後に、私は自分のフェイスブックでライブスピーチをしました。そのタイトルは『ミン・アウン・フライン最高司令官はこれから必ず悪事を起こす』というものでした。ミン・アウン・フラインは以前の最高司令官であったタン・シュエとは違う。だから必ずクーデターを起こすと確信していたので、警鐘を鳴らしたのです」
――タン・シュエは前任の国軍最高司令官ですね。ミン・アウン・フラインがタン・シュエと違うとはどのような意味ですか。
タン・シュエ
1933年生まれ。1992年から国軍最高司令官を務め2011年に政界を引退した。
キン・ニュン
1939年生まれ。1983年から国防省情報総局局長に就任。2003年から首相となったが2004年に解任された。
臨時亡命政府
ビルマ連邦国民連合政府ともいう。本拠はアメリカに置かれた。2012年解散。
国民統一政府
クーデター後の2021年4月、NLD議員を中心とした民主派が新たに結成した政府。ただし国軍は国民統一政府を承認していない。
ICJ(国際司法裁判所)の法廷
2019年11月、イスラム諸国の「イスラム協力機構(OIC)」の代表として、アフリカのガンビアがミャンマー政府を提訴して開かれた法廷。ガンビアは原告として、ロヒンギャへの迫害が国際条約で禁じられる「ジェノサイド」だと主張した。ジェノサイドにあたるかどうかの判断には今後数年を要するとみられているが、2020年1月、ICJはロヒンギャの弱い立場を鑑み、ミャンマー政府に仮保全措置として、ロヒンギャへの迫害行為を防止するためにあらゆる方策を講じるよう緊急命令を下した。