気鋭の大学生GKは日本生まれのミャンマー人
キックオフのホイッスルが鳴った瞬間、いきなり高いポジションを取ったゴールキーパー(GK)は、最後尾から絶え間なく指示を飛ばした。
「中に絞れ!」「一回、引け」「フォワード、オープン!」
甲高いコーチングの声が芝生の上に響くとその意志を分有したかのようにフィールドの選手が連動して動く。2021年12月5日、産業能率大学と玉川大学との練習試合である。産能大の背番号1、カウンゼンマラ(以下、マラ)は、1本目の45分間、途切れることなく声を出し続けた。終始、味方が押し込み続けたためにセーブする見せ場はなかったが、その存在感は出色であった。前半で2点を先行し、予定通りハーフタイムにベンチに退くと、マラは入念なストレッチをしながら、試合に見入る。出番はもうないが、お役御免となっても気持ちをゲームから切らさない。
試合後、コーチングのことを聞いてみた。あれはいつも心掛けていることですか。マラは少しはにかんだ表情で声を絞り出した。
「コーチングというのは自分の強みの一つだと思っています。一番後ろからピッチを見ているので、いかに俯瞰して、リスクを管理できるかを意識しています。もちろんキーパーの仕事はシュートを止めることですけれども、まずシュートを打たせないことを何よりも強く意識して、先の先まで読んでプレーするように考えています。仲間に対する声掛けも、それを言われることでモチベーションがあがるような言葉を考えています」
派手なセービングはなくとも、危険な時間帯を相手につくらせなかった事実がその意図を物語る。監督の小湊隆延もまたマラのコミュニケーション能力の高さを認めていた。
「チームメイトになかなか要求できない選手もいる中で、マラは吹っ切ったようにいつも強く要求しています。彼はそれでいて頑固でなく、仲間の意見を素直に聞く耳も持っている」
今や高いレベルを求める選手ならば、サッカーノートをつけるのは誰もがやっていることだが、マラはプレーごとに細分化して分析を加えている。さらには、必ずYouTubeのトップ選手のプレー映像と自身のそれを照らし合わせながら見るようにしている。
では、今目標としているGKは?
「手本にしている選手はプレミアリーグのエデルソン(マンチェスター・シティ)です。ボールの持ち方や、パスコースの探し方を参考にしています。体格でいうと、まだまだ自分は細いほうなので、これから時間をかけてエデルソンくらいの体格を目指して体をつくらなくてはいけないと思っています。それから朴一圭(パク・イルギュ)さん(サガン鳥栖)。在日コリアンというハンディがあって、Jリーグでも各チームに一人しか所属が許されない。それでも諦めず、リスクを背負ってでも上を目指していく姿勢というのが見ていて勉強になりました。マリノス時代の一圭さんを練習試合で見たんですが、ひとつひとつのプレーを考えながら、自分で修正をかけながらゴールを守っているのが分かって、本当に賢いプレーヤーだなと感じました」
そこに到達するために今の自分は何が足らない?
「一番足りていないのはフィジカルです。今まで積み上げてきたキーパーとしての技術は、フィジカル面を一気に鍛えることで、自分が思うよりはるかに伸びると思います。そのために筋力トレーニングの回数を上げて、瞬発系のダッシュを繰り返しています。もちろん栄養面も注意しています。どの食材にタンパク質、食物繊維が入っているかを気にして摂取しています」
ネルソン・マンデラ
1918~2013年。南アフリカに生まれ、若い頃から反アパルトヘイト活動に身を投じる。1964年に活動が原因で国家反逆罪に問われ、90年まで投獄された。釈放後は政治家として活躍し、93年にはノーベル平和賞を受賞。94~99年には南アフリカの大統領を務めた。
Jリーグでも各チームに一人しか所属が許されない
日本サッカー協会(JFA)の基本規定によれば、外国籍の選手のうち、日本で生まれ、学校教育法第1条に定める学校において、義務教育を受けている、もしくは義務教育を終了した選手、または学校教育法第1条に定める高等学校もしくは大学を卒業した選手であれば、チームに1名まで、外国籍の選手とはみなされずに登録できる。