古い友人が突然現れて、金の無心をしてきた。定職に就かない友人の収入は不安定、なかなか節約もできず、借金は膨らむ一方だという。「そんな生活は、いつか破綻するよ」と忠告しても、「そのうちなんとかなるだろう~」と、クレージーキャッツの歌を口ずさむ始末だ。
「サステイナビリティー」は、「このままでいいのか?」「今の状態を維持できるのか?」を問う言葉だ。「持続可能性」という意味を持つこの言葉が最初に表舞台に登場したのは、1972年に発表された「成長の限界」というリポートだった。
世界的な経済学者や経営者によって結成されたローマクラブがまとめたリポートで、深刻化する環境破壊、爆発的な人口増加、資源の浪費などを放置すれば、やがて経済成長が限界に達し、「持続可能な発展」(sustainable development)は望めないと強く警告して、世界に衝撃を与えたのだった。
次にこの言葉が脚光を浴びるのは80年代半ば、アメリカの経済学者ポール・クルーグマンの、このままではアメリカ経済は持続不可能(unsustainable)だ、という警告だった。
当時のアメリカ経済は、財政赤字と貿易赤字という「双子の赤字」を抱えていた。アメリカ国民は、働いて稼いだお金以上に消費し、その結果、赤字が急激に膨らんでいたのだ。危機的な状況にもかかわらず、時のレーガン大統領は「何とかなるだろう」と楽観的だった。そんな状態に業を煮やしたクルーグマンが、「このままではアメリカ経済は崩壊する」と指摘したのだった。
クルーグマンは、深い洞察力と確かな予測で知られ、ノーベル賞が確実視されている経済学者。それだけに、この警告は「サステイナビリティー・ショック」と呼ばれるほどの衝撃を与え、慌てたレーガン大統領は、「双子の赤字」解消に本腰を入れる。その政策の一つが、貿易赤字の削減につながるドル安政策。85年9月にまとまった「プラザ合意」によって行われたドル安誘導政策によって、ドル・円相場はわずか1年間で240円から半分の120円になってしまったのだ。
現在、「サステイナビリティー」の語はさらに一般化され、様々な場面で使われるようになった。赤字を続けるなど根本的な経営問題を抱えている企業について、「この企業のサステイナビリティーは低い」とか、「アンサステイナブルだ」といった形で引用されることもある。
そして、近年特に使われるようになったのが地球環境問題においてだ。二酸化炭素などの温室効果ガスによる地球の温暖化、森林伐採や資源の浪費など、深刻な問題が発生している地球。このままでは、環境が徹底的に破壊され、人類は滅亡しかねないという危機感が「サステイナビリティー」というキーワードで語られているのである。
「そのうち何とかなるだろう…」という安易な考え方は許されない。「サステイナビリティー」は、人類に突きつけられている大きな課題であり、真剣な取り組みを直ちに始めることが求められているのである。