「バブル」も、ドーム球場と似た構造を持っている。バブルとは株式や不動産などの価格が、本来の価値からかけ離れた水準に上昇すること。物価の上昇は「インフレ」であり、バブルもインフレにほかならない。しかし、通常のインフレが、食料品や衣料品、サービス価格など広範囲に及ぶのに対して、バブルは株式や不動産、美術品や貴金属などの資産(ストック)に対象が限定される「ストック・インフレ」。物価を気圧と考えるなら、ドーム球場のように、ストックという限られた場所の気圧だけが風船のように高くなっている「局地性インフレ」がバブルである。
バブルは大量のマネーが供給され、これが資産に集中することで発生する。マネーの「送風機」は銀行などの金融機関であり、不動産や株式などの購入資金を融資、これがバブルというドームを形成し巨大化させて行く。
経済に様々な影響を与えるバブルだが、その問題点が認識されるまでには、時間がかかる。株式や不動産が異常な値上がりをしても、直接的に影響を受けるのは株式投資をしている人や住宅購入予定者などに限定され、全国民を巻き込むものではないため、切迫感が希薄になってしまうからだ。
政策対応も遅れる。通常のインフレの場合、経済活動全体に大きな影響を与えることから、金融引き締めなどの政策が機動的に打ち出される。ところが、同じインフレでも、バブルは対象が限定されることから、政策対応も後手に回ってしまう。
政策対応が遅れるもう一つの理由が、バブル対策の副作用だ。バブルをつぶそうとして金融引き締めを行うと、バブルとは関係のない、一般の経済活動にもブレーキがかかる。ドーム内の気圧を下げる政策が、外部の気圧まで下げてしまい、景気後退を招く恐れがあるのだ。
しかし、株式にも不動産にも適正価格があり、供給されるマネーにも限界があることから、バブルはやがて行き詰まる。供給されていたマネーが減少し、適正な価格(気圧)に向けてバブルはしぼみ始め、やがて一気に収縮する。「バブル崩壊」だ。
その崩壊の過程で、バブルは新たな問題を引き起こす。「デフレ圧力」だ。資産価格の暴落が、経済全体に波及し、一般の物価も下げてしまう。ドーム内の圧力が急低下する結果、周辺の気圧まで引き下げ、インフレの反対であるデフレを引き起こしてしまうのだ。
8世紀の中国では牡丹が、17世紀のオランダではチューリップがバブルを引き起こし、日本経済も株式と不動産バブルで大打撃を受けた。バブルの語源となったのは、18世紀のイギリスで起こった「南海会社」の株式の暴騰と暴落である「南海泡沫事件」(=The South Sea Bubble)。この株式を高値で購入、直後の暴落で大損をしたのが、アイザック・ニュートン。「私は天体の動きは計算できるが、人々の狂った行動は計算できない」。ニュートンの言葉は、理性では防げないバブルの怖さを物語っているのである。