インフレーション(インフレ)も、肥満とよく似た原因と症状を持つ経済の病で、物価の異常な上昇という形で表面化する。その主な原因は、供給を上回る需要が発生するためで、これによってモノ不足となり、物価が上昇する。インフレは、経済の「食欲」である需要が旺盛で食べすぎとなり、物価という「体温」が異常に上昇してしまうことなのだ。
インフレが発生する理由はいくつかある。最も多いのが、需要に供給が追いつかず、消費や設備投資などが増えすぎて物価が上昇するというものだ。需要が引き上げるという意味でデマンド・プル(demand pull)とも呼ばれる、単純な「食べすぎ」だ。
また、供給が減少して需要に追いつかず、物価が上昇する場合もある。「石油ショック」などがその例だが、円相場が円安になって、輸入品の価格が上昇、これによってインフレが発生することもある。
また、需要と供給とは別に、貨幣の発行量が原因になる場合もある。中央銀行が必要以上に貨幣を発行すると、人々がそれを積極的に使って消費が増大し、インフレが発生する。手元にたくさんお金が入ってきたので、たくさん食べて太ってしまったというわけだ。中央銀行が過剰な貨幣を増発するのは、国の財政が苦しくなった場合が多い。台所事情が苦しくなった末の安易な政策が、国民の肥満を誘発してしまうのである。
インフレはまた、その進行速度によってもいくつかの呼び名がある。進行速度が遅く、気がついたらインフレになっていたというのが、「忍び寄る」という意味のクリーピング・インフレで、先進国に多く発生する。これよりも速度が速く、年率数十%で物価が上昇する場合をギャロッピング・インフレ、さらに、第一次世界大戦後にドイツで起こった、1年間で物価が50倍にもなったという猛烈なインフレをハイパー・インフレと呼んでいる。
インフレの処方せんは、肥満と同様に「ダイエット」が基本となる。需要という食欲が過剰になっていることから、食事制限をするのが近道というわけだ。具体的には、増税や金利の引き上げなどによって、使えるお金を減らそうとする。場合によっては、中央銀行が直接貨幣の供給量を抑制することもある。思うように食べられないダイエットがつらいように、インフレの処方せんも、国民にとっては厳しいものとなることから、抵抗感が強いものとなるのだ。
しかし、インフレは万病の元であり、放置すると経済全体が大混乱に陥る危険性がある。その典型が、第一次世界大戦後に起こったドイツのハイパー・インフレ。混乱を極めた経済情勢は、ヒトラーの台頭を許すことになった。こうしたことから、政府と中央銀行は、断固たる姿勢でインフレ対策を実施することになるのである。
inflationには「膨張」という意味もあるように、インフレは「経済の肥満」だ。それは多くの国々を苦しめてきた病であり、ふとした油断から発生し、どうしようもない状況に陥る場合が少なくない。多くの人々を悩ませる肥満同様、インフレも経済活動にダメージを与える厄介な存在であり、経済の健康を維持するためには、絶対に引き起こしてはならないものなのである。