これが「経済効果」だ。経済効果とは、個人や企業などが、「斎藤投手の登場」といった何らかの動機付けによって生み出された経済活動を合計し、金額表示したもの。経済効果の最小単位は、偶然通りかかった「焼きイモ売り」を見て思わず買ってしまったといった個人の消費活動で、焼きイモの価格が300円なら300円、10人が買ったら3000円となる。
経済効果が算出されるのは、オリンピックやワールドカップなどのイベント開催、スマートフォンのような新商品の投入、さらには「家電エコポイント制度」や減税といった経済政策など様々だ。
経済効果の算出は「売り上げ」つまり「需要」の集計から始まる。斎藤投手の場合、関連グッズの販売、入場料収入、球場および周辺の飲食費、交通費などが合計される。
これに「波及効果」が加えられる。グッズの売り上げが増えれば、製造業者への注文が増加し、その材料を生産する業者への注文も増える。注文の増加に応えるために、機械を新規購入するなどの設備投資が行われることもあるだろう。また、注文が増えれば従業員の給料が増え、場合によっては従業員数を増やすこともあり、これによって、新たな消費が生まれることも期待できる。経済効果には、直接的な需要の変化に加えて、こうした波及効果も合算されるのである。
消費や設備投資が増えれば、GDP(国内総生産)が増えて、経済成長率を押し上げる。つまり、景気がよくなるのだ。減税やオリンピックなどの場合、膨大なデータと計算式を駆使した産業連関表やマクロ経済モデルを使ったコンピューターシミュレーションで、「経済効果は1000億円、経済成長率は0.5%アップ」といった形で公表される。
しかし、どんなに高度な計算をしても、経済効果は「推計」に過ぎない。斎藤投手の経済効果は、「1軍で1年間投げる」といった前提条件で計算されるため、成績が伸びないと根拠が失われてしまう。また、知人の奥さんが購入した望遠鏡を含めるかどうかなど、計算範囲によっても、結果が変わってくる。前提条件次第で、どのような数字でも導き出せるのだ。
また、経済効果はプラスの面ばかりが強調されてしまう。知人の奥さんが佑ちゃんグッズを大量購入することで、ご主人のお小遣いが減らされる場合もあるし、貯金が減ることも考えられる。しかし、経済効果には、こうしたマイナス効果は反映されない。エコカー減税で自動車の販売台数が増え、経済成長率は高まるが、一方で生じる財政の悪化は、無視されてしまう。
特需(特別需要)と呼ばれることもある経済効果だが、結局は「捕らぬ狸の皮算用」であり、宣伝や政治目的に利用されることも少なくない。数字に惑わされることなく、冷静に受け止めることが必要である。