群雄割拠の戦国時代にあって、自ら攻めに出ることは極力避け、忍耐強く待ち続けて遂に天下を取った徳川家康。この川柳は家康の戦略を端的に示したものだが、「マネタリスト」にもあてはめることができる。
マネタリストは、マネーサプライ(貨幣供給量)が、景気や物価を決定するという経済理論を信奉する人々の総称で、その考えはマネタリズムと呼ばれる。
マネーサプライを増やせば経済成長率は上昇、減らせば鈍化する。物価もマネーサプライを増やせば上昇、減らせば低下する。したがって、マネーサプライを適切に操作すれば、物価の安定と持続的な経済成長が達成できると、マネタリストは主張する。
経済政策では、不況になると政府が公共事業などを増加させる「財政政策」があるが、マネタリストはこれを否定する。マネーサプライのコントロールで十分なので財政政策は不要、政府は余計な行動をするべきでないというのだ。
マネタリストはマネーサプライのコントロールについても、余計な行動は慎むべきだと考える。マネーサプライの増減が、景気や物価に影響を与えるまでには時間がかかる。したがって、景気が悪化してからマネーサプライを増やしても間に合わないし、インフレが起こりそうだとしてマネーサプライを減らしても、時すでに遅くインフレが止まらなくなる恐れもある。また、景気や物価の判断に誤りがあり、景気の力が弱いのに、過熱を恐れてマネーサプライを減らし、結果的に不況を引き起こすこともある。長期的な経済成長を決めるのは、労働力の供給や技術革新などに基づいた成長力であり、細かなマネーサプライの操作は経済を混乱させるだけ。本来の成長力に応じてマネーサプライの増加率を一定水準に固定、物価や経済成長率がこれに従うまで待つことで、自動的に最適な経済状況が生まれるとマネタリストは考える。
経済状況に応じて打ち出す財政政策を止め、中央銀行の細かなマネーサプライの操作も否定する。「攻め」ではなく、「待ち」に徹するのがマネタリストで、「不景気なら 良くなるまで待とう…」という家康のような姿勢を貫くのだ。
マネタリストの考え方に、強く反発するのが「ケインジアン」だ。イギリスの経済学者ケインズの考え方を信奉する人々で、基本理念は政府や中央銀行による適宜適切な経済政策の実行。景気が悪くなれば、すかさず財政政策を実施、中央銀行もマネーサプライの増加や政策金利の引き下げなどの金融政策に打って出る必要があると主張する。「不景気なら 良くしてみせよう…」という豊臣秀吉のような「攻め」の姿勢をケインジアンは採る。このほか、信長型の経済政策もある。社会主義における計画経済だ。国家が絶対的権限を持ち、従わなければ罰せられる。「鳴かぬなら 殺してしまえ…」という恐ろしい経済政策だ。
社会主義はほとんど消えたが、マネタリストとケインジアンの論争は続いている。リーマン・ショック後の巨額の財政政策やマネーサプライの増大を強く批判したマネタリストだが、今のところは旗色が悪い。1980年代に隆盛を極めたマネタリスト、その復権はあるのだろうか…。