非合法であったり、経済統計に反映されなかったりする経済活動の総称が「地下経済」(underground economy)で、英語表記を略して「アングラ経済」と呼ばれることもある。
地下経済には様々なものが存在する。美術品などの盗難品の売買や麻薬取引、売春に武器の密売などが地下経済の典型だ。また、顧客情報を盗み出して名簿業者に売るといった行為や、ソフトウエアの違法コピー、偽札作りに人身売買なども地下経済に含まれる。
ただし、地下経済は違法な取り引きに限ったものではない。家事労働やボランティア活動のように、経済統計に反映されない無償労働も地下経済に入る。多くの人々が認識し、経済統計によって把握可能な「地上経済」に対して、統計にも現れず、実態を把握できないのが地下経済なのだ。
地下経済は様々な問題を引き起こす。違法な取り引きは税務当局が把握することができないため、脱税の温床となり、公平な税負担を阻害すると同時に、政府の財政状況を悪化させる一因となる。また、暴力団などの反社会的組織が、地下経済を資金源としていることも大きな問題だ。
地下経済が拡大すると、経済の実態と経済指標との間にズレが生じ、経済政策を誤らせる恐れも出てくる。経済政策は経済統計に表れた「地上経済」の状況を判断して決定される。したがって、地下経済が広がると判断を誤り、無駄な経済政策が行われたり、後手に回ったりすることもある。
地下経済の規模を推計するのは容易ではない。「インターナショナル・エコノミック・ジャーナル」10年12月号に掲載された調査によると、合法的なものを含めた地下経済の規模は、対GDP比で日本が11.0%、アメリカ8.6%、イギリス12.5%、ドイツ16.0%などとなっている。あくまで推計だが、大きな規模になっていることは間違いないだろう。
こうした中、地下経済を地上に出そうとする動きが広がり始めている。14年5月、イタリアは麻薬取引や売春、酒類やタバコの密輸などをGDPに加算する方針を打ち出した。イタリアは、財政赤字をGDPの3%以内に収めるというEU目標の達成に苦しんでいる。地下経済をGDPに算入できれば、目標達成が容易になるという思惑がその背景にある。イギリスも同様の動きを見せるなど、地下経済をGDPに含める動きが広まり始めているが、これは違法な取り引きを合法と見なすことになりかねないと批判されている。
世田谷の住宅から盗まれたルノワールの「マダム・ヴァルタ」は、13年に突如ロンドンのオークションに出品され、約1億5000万円で落札された。「地下」から「地上」に現れたことで経済統計に反映されることになった名画の取り引きだが、盗難後の流通ルートの解明は困難で、元の持ち主に戻される可能性も低いという。
地下経済は様々な弊害をもたらす。地下経済を「地上」に出して実態を明らかにし、違法行為を厳しく取り締まる必要があるだろう。