価格効果とは、価格の変動による消費行動の変化を分析する概念で、「代替効果」と「所得効果」の2つから成っている。
代替効果は価格が変化した場合、変化前と同じ「効用」を得ようとすることで生まれる消費行動で、相対価格の変動に注目する。牛肉価格の下落は、野菜価格が相対的に上昇することを意味する。したがって、牛肉の消費が増えて野菜の消費は減るが、すき焼きでお腹をいっぱいにするという「効用」は同じことになる。
このように、代替効果では、価格の下がったモノの消費は増加、それ以外のモノの消費が減るという単純な動きを示す。しかし、価格効果のもう一方である所得効果は、より複雑な動きを見せる。
所得効果は、価格の変動が生む実質的な所得の変化に注目する。牛肉の価格が下がればお金に余裕ができる。つまり所得の増加と同じ効果が得られて、消費が増えるのだ。反対に価格が上昇すれば、実質的な所得が減少し消費も減少する。
所得効果が代替効果と違うのは、牛肉と野菜の組み合わせの変化という単純なトレードオフではない点だ。
牛肉ではなく、野菜の価格が大きく下がったとしよう。代替効果では、相対的に安くなった野菜を多く消費し、牛肉の消費量を減らすことになるが、現実にこうしたことは起こりにくい。
ここで所得効果の登場となる。所得が増えれば消費量が増えるというのが一般的であり、経済学では「正常財」あるいは「上級財」と呼んでいる。これに対して、所得が増えたことで反対に消費量が減少するものもあり、これを「下級財」と呼んでいる。収入が増えれば、バスを利用せずにタクシーに乗るだろうし、ランチもファストフード店ではなく、レストランで食べるようになるだろう。この場合、タクシーやレストランが上級財、バスやファストフード店などが下級財となり、所得が増えると下級財は消費量が減るという、通常とは逆の動きを見せるのである。
すき焼きの場合、牛肉が上級財、野菜が下級財となる。牛肉価格の下落は、代替効果によっても、所得効果によっても牛肉の消費量を増加させる方向に作用する。しかし、野菜の価格が下落した場合、代替効果は野菜の消費を増やす方向に働くが、所得効果は下級財の野菜ではなく、上級財の牛肉の消費を増やす方向に強く作用する。野菜の価格が下がっても消費量が増えるとは限らないのは、下級財である野菜が引き起こすマイナスの所得効果があるからだ。
また、価格が上昇すると、消費が増えるという特殊な場合もある。19世紀、アイルランドで飢饉が発生しジャガイモの価格が暴騰した。主食のジャガイモは減らせないため、肉など他の食料の消費が減少、これを補うためにより多くのジャガイモが消費されたという。
主食であるため、ジャガイモには代替効果が十分に働かない。一方、所得効果では、ジャガイモの価格上昇に伴う実質所得の低下が肉など上級財の消費を減らし、下級財であるジャガイモの消費を増やす方向に作用してしまったのだ。こうした特殊な価格効果をもたらすもの(財)は、最初にその可能性を指摘したイギリスの経済学者の名前を取って「ギッフェン財」と呼ばれている。
価格の変化が消費にどんな影響を与えるのか? 価格効果は、複雑な消費のメカニズムを解明する上で、必要不可欠な概念なのである。