駆け込み需要は消費者に不利になることが行われる直前に、需要が急拡大すること。消費税率のアップやエコカー減税の打ち切り、エコポイントの基準改定などの税制や制度の変更が行われる場合、将来買う予定だったものを前倒ししたり、多めに買ったりといった行動が起こる。人々が一斉に同じ行動に出ることから、ガソリン税率アップの前日にガソリンスタンドに長い行列ができたり、エコカー減税の打ち切り直前に注文が殺到、納車が遅れたりするといった事態を引き起こすことも珍しくない。
駆け込み需要は、商品の規格変更などによって生じることもある。2011年7月24日、テレビのアナログ放送終了の際には、デジタル放送対応のテレビの需要が盛り上がった。14年4月のパソコン基本ソフト「Windows XP」のサポート終了に際しては、パソコンを買い替える駆け込み需要も発生した。
冬眠直前のクマが食べ物を求め、時には人里に下りて人間を襲うといった行動に出ることがある。それと同じように、消費の現場も駆け込み需要で混乱、パニックが発生することもあるが、その後にやってくるのが「反動減」だ。需要を先取りしてしまうことから、その後の売り上げが一転して減少する。冬眠してしまうとクマが何も食べなくなるように、人間も商品を買いたいという「物欲」(=需要)がなくなってしまうのだ。
しかし、冬眠後のクマは食べなくなってしまうが、人間の生活では駆け込み需要の後でも商品が供給され続ける場合が大半だ。そこで反動減を少しでも小さくしようと、価格の引き下げや、従来なかった新商品を投入するなど、需要を維持する試みがなされる。クマに冬眠は必要だが人間には不要。駆け込み需要でたくさん買い込んだ後でも、価格の安いものや、より良いものが出てくれば、引き続き購入してくれるかもしれない。
一般的に駆け込み需要は、もともとあった需要を先取りするもので、反動減と合わせるとプラスマイナスゼロになると言われているが、必ずしもそうとは限らない。反動減が人々の消費行動を変化させ、ずっと冬眠状態に置くこともある。日本を熱狂させたバブル経済は、巨大な駆け込み需要をもたらしたが、バブル崩壊によって生じた反動減も大きく、日本国民はなかなか冬眠から目覚めなかった。そればかりか、バブル時代の過剰消費を反省、日本国民は消費を控える「小食のクマ」になってしまった。駆け込み需要と、これに続く反動減が消費行動そのものを変えてしまった結果、日本経済は長く苦しいデフレに落ち込んでしまったのだ。
アベノミクスによる経済効果に、消費税増税による駆け込み需要が加わったことから、日本経済の需要は増加。これが景気を押し上げたが、その後の反動減がどの程度になるのかは不透明だ。駆け込み需要の反動減を可能な限り小さなものとし、消費者を冬眠させないこと。これが日本の景気回復を持続させるカギなのである。