冬の寒い日に、しばしば生じる現象だ。エアコンのセンサーが上の方に付いている場合が多いことも手伝って、温度調節がうまく行かないことも多い。
日本経済にも同じような現象が起こっている。日本経済を巨大な旅客機と考えると、物価は機内の「温度」に相当する。温度が上がりすぎるとインフレ、下がりすぎるとデフレとなるが、この物価を測る「温度計」が物価指数で、「企業物価指数」は、「消費者物価指数」と並ぶ重要なものだ。
両者の違いは、その設置場所にある。消費者物価指数が、一般消費者が購入する商品などの価格を測定するのに対して、企業物価指数は、企業間で取引される商品の価格を測定する。2000年までは卸売物価指数と呼ばれていたもので、この物価の変化が、やがて消費者物価指数に波及することになる。
「消費者物価指数」が足元に設置された温度計なら、「企業物価指数」は天井に設置された温度計なのである。
企業物価指数は、消費者物価指数と同様に、日本銀行が毎月集計し、翌月の上旬(原則として8日目の営業日)に速報値が発表される。基準年(現在は05年)の物価を指数化して100として、その変化を読み取るもので、毎月のデータの他に、年ごとのデータも発表されている。
企業物価指数には、国内の企業間で取引される商品の価格を示す国内企業物価指数、輸出品の価格を示す輸出物価指数、輸入品の価格を示す輸入物価指数の三つがある。通常、企業物価指数と呼ばれているのは、「国内企業物価指数」である。
企業物価指数と消費者物価指数の二つの温度計の目盛りは、必ずしも一致しない。実際のデータを見てみよう。07年12月の企業物価指数は、05年を100として105.4。前年の同じ月に比べて2.6%の上昇で、原油や原材料の値上がりを反映して、46カ月連続の上昇となった。
ところが、消費者物価指数を見ると、同じく05年を基準とした数値は100.9。前年の同じ月に比べて0.8%の上昇に止まっているのだ。天井の温度は上昇しているのに、足元の温度はほとんど上昇していないのである。
その大きな理由は、企業が、原材料などの値上がり分をコスト削減などで懸命に吸収しているからだ。価格に敏感な消費者を考えれば、原材料などの上昇分をそのまま価格に反映させると、たちどころに競争に負けてしまう。そのため、経費削減など、様々な企業努力によって、商品の値上げ幅を押さえ込んできた。この結果、企業物価指数が上昇しても、消費者物価指数はなかなか上昇しないという現象を引き起こしているのだ。
しかし、企業のコスト削減も限界に近づき、消費者物価指数も企業物価指数に追従するように、上昇を見せ始めている。長い間、物価がマイナスになるデフレに苦しんできた日本経済。しかし、企業物価指数ではすでにデフレを脱却、むしろインフレの危険性を示し始めている。
「消費者物価指数」に先駆けて、物価の動きを感知する温度計が、「企業物価指数」なのである。