発表されるのは、株式市場が始まる直前の午前8時50分。かつてこのデータは、株式市場が開いている午後2時に発表されていた。しかし、その結果が株価を大きく変動させることが頻発したため、混乱を避けるために発表時間が変更されたのだ。
なぜ、機械受注統計が金融市場に大きな影響を与えるのか。それは、このデータが、日本経済の先行きを示すものの一つであるからなのだ。
「機械受注統計」とは、機械メーカー280社による生産設備用機械の受注額を集計したもので、設備投資の動向を先取りするものだ。
日本経済を巨大な旅客機と考えると、「設備投資」は「消費」と並ぶメインエンジンで、その出力が上昇すれば旅客機の高度であるGDPが増加、つまり景気が良くなるということになる。したがって、機械受注統計が良い結果なら株式市場にとってはプラスの材料になり、反対に悪ければ、株価にはマイナスに作用するのだ。
機械受注統計は、内閣府が集計し、毎月10日前後に、2カ月前の結果が発表される。また、3カ月ごとに向こう3カ月間の見通しも発表される。機械受注統計にはいくつかのカテゴリーがあるが、「船舶・電力を除く民需」というデータに注目が集まる。
機械受注統計には、民間企業はもちろん、政府が発注するものも含まれる。この中で「民需」が特に注目されるのは、景気とは直接的に関係がない政府からの発注を除いた方が、設備投資の動きを正確に把握できるためだ。また、「船舶」と「電力」からの受注は金額が大きい上に振れ幅が大きい。このため、これを除いた方が、設備投資のトレンドをより正確に捉えられると考えられている。
実際のデータを見ると、2008年2月8日に発表された07年12月の「機械受注統計」は、1兆164億円、前月比3.2%減少となった。2カ月連続の減少に、株式市場では景気の先行きに対する不安感が広がった。
この日の株式市況を見てみよう。「9日前場の東京株式市場は軟調展開。午前8時50分に発表された07年12月の機械受注(船舶・電力を除く民需)が市場予想を下回ったことで、売りが優勢となり…」と、そのデータが株式市場に大きな影響を与えたことが分かる。
「機械受注統計が大きく落ちた!景気が悪くなるので、株は売りだ!」。株式のトレーダーたちは、発表されたデータを瞬時に分析、10分後に取引が始まる株式市場での戦略を立てる。「機械受注統計」は、日本経済という旅客機のメインエンジンの一つである設備投資の先行きを占い、株式市場も大きく左右する重要なデータなのである。