日本経済を巨大な旅客機と考えると、高度が国内総生産(GDP)となり、その変化が経済成長率となる。
GDPは大きく分けて「消費」「設備投資」「輸出入」「政府支出」の四つの項目で構成される。これは、旅客機の四つの主要エンジンに相当し、その出力の増減によって、旅客機の高度の変化、つまり景気の良しあしが決定されることになる。
「住宅投資」がGDP全体に占める割合はおよそ3%で、「消費」に付随する「補助エンジン」ということができる。
住宅投資を左右するのは、個人の意思である。景気が良くなり収入も増加、将来に対する不安もなくなれば、「家を買おうか…」という気持ちになる。反対に、景気が悪化、あるいは悪化すると予想される場合、いつまでも現在の収入が得られるとは限らないという不安から、住宅購入には後ろ向きになってしまう。
もちろん、住宅の価格やローン金利の動向も影響を与える。住宅価格やローン金利の上昇は、購買意欲を低下させる。これらの上昇が予想される場合、「駆け込み需要」が発生し、住宅投資を引き上げることもあるが、やがて反動が出て住宅投資は落ち込み、最終的にはプラスマイナスゼロになる場合が大半だ。
住宅投資の動きを示す最も重要なデータが、国土交通省が集計する「新設住宅着工件数」だ。
一般に「住宅着工件数」と呼ばれるもので、その月に着工された住宅戸数を集計、「持家」「貸家」「分譲住宅」に分けて、翌月の下旬に発表している。床面積や地域別の着工戸数なども併せて発表される。
「新設住宅着工件数」と並んで重要視されるのが、「マンション市場動向」。都市部では、マンションが住宅の中心となるため、民間の調査機関である不動産経済研究所が、その市況を調査して、発表しているのだ。
首都圏と近畿圏について、販売戸数と販売価格、契約率や即日完売となった物件名などが発表されるが、販売戸数と並んで注目されるのが「契約率」だ。どんなにたくさん販売されても、契約に至らなければ購入意欲は下がっていることになる。好不調の分かれ目は70%で、これを上回っていれば売れ行き好調、下回っていれば売れ行きは不振と判断される。
住宅投資は、GDPのあくまで補助的な存在だった。ところが、2007年の後半から急激に減少し、景気の足を引っ張っている。
07年7~9月期の経済成長率は+0.4%(第2次速報値)だったが、住宅投資は前の期に比べて-7.9%の大幅な減少で、経済成長率を0.3%も引き下げてしまっていたのだ。
「住宅投資」が横ばいだったら、経済成長率は+0.7%。「消費」や「設備投資」というエンジンが出力を上げてきていただけに、完全に足を引っ張った形となってしまった。
住宅投資が落ち込んだ最大の理由は、建築確認申請などの手続きの遅れ。一連の耐震構造計算偽装事件を受けて建築基準法が厳しくなったことで、建築現場が混乱しているというのだ。専門家は、いずれ元の水準に戻るという楽観的な見方をしているが、先行きは不透明だ。
日本経済という旅客機においては、補助的な存在である「住宅投資」。しかし、住宅は人生最大の買い物。その動向は、時に「消費」以上に、景気全体を左右する可能性があるのである。