明治政府は戦費調達のために酒税を大幅に増税し、1902年(明治35)には国税の4割を占めるまでになっていた。安易に酒税が引き上げられ、思うようにウイスキーが売れなかったという。
酒税の割合が増えていったことで、税金の「直間比率」も、間接税に大きく傾いていく。税金は、徴収方法によって直接税と間接税に分けられ、「直間比率」はその比率を示している。
1877年(明治10)の日本の直間比率は82:12と、直接税が優位に立っていたが、明治30年ころには逆転。1912年(明治45)には32:68と、間接税が圧倒的な優位を占めるようになった。
直間比率は、その時々の経済や政治の情勢に応じて変化してきた。その理由は、直接税と間接税が相反する特徴を持っているからに他ならない。
直接税には個人の収入に課せられる所得税や、企業に課せられる法人税、不動産に課せられる固定資産税などがある。個人や企業など、税金を負担する人が、直接国や自治体に支払うことからこうした名前で呼ばれている。
一方、間接税には消費税や酒税、揮発油税や関税などがあるが、こちらは、税金を負担する人と、実際に税金を納める人が異なる。消費税の場合、税金を負担しているのは商品を購入した消費者だが、支払いを行うのは商品を販売した店舗で、消費者は間接的に税金を支払うことから、間接税と呼ばれる。
直間比率は、国によっても大きく異なる。財務省の調査によると、2009年1月現在、日本の国税の直間比率は60:40と、直接税が優位に立っている。アメリカは94:6と、直接税の比率が圧倒的だが、イギリスは58:42、ドイツは46:54、フランスは54:46となっている。
直間比率に違いが発生するのは、それぞれに一長一短があり、どちらが優れていると決めつけることができないためだ。
直接税は納税者の経済状況に応じて、きめ細かな対応をすることができる。高額所得者の税率を高くする一方で低所得者の税率を下げたり、様々な控除を設けたりすることなどによって、所得格差を縮める累進課税が可能だ。
しかし、直接税は所得を十分に把握できず、脱税が横行するなど結果的に不公平を生じさせる恐れがある。税金を集めるコストが大きいのもデメリットだ。また、税収が景気の変動を受けやすいという側面もある。所得税や法人税は、景気がよくなると税収が一気に増えるが、景気が悪化すると税収減が深刻になってしまうのだ。
一方の間接税には、消費の額が同じなら、所得の大きさにかかわらず、税負担が同じとなる「水平的公平」というメリットがある。また、脱税の心配も小さく、徴収コストも直接税に比べて小さい。さらに、景気変動の影響については、消費額も景気によって変化するが、その比率は所得などに比べて小さく、相対的に安定した税収が確保できるのだ。
しかし、間接税の場合には、個々の家庭の事情に配慮したきめ細かな税金設定ができず、低所得者ほど税金が重くなる逆進性というデメリットがある。
直接税にも間接税にも一長一短があり、どちらが優位とは決められない。こうしたことから、直間比率も国によって、さらにはその時々の政治、経済情勢によって変化してきているのである。
酒税の重荷に苦しんでいた竹鶴政孝が、現在の直間比率を見たら驚き、大いに喜ぶだろう。直間比率は税制の重要なポイントであり、いつの時代にも様々な議論が展開されてきた。しかし、重要なのは直間比率そのものではない。公正な税負担と無駄のない使い道こそが、最も議論されるべき問題なのである。