こうした経験を持つ人は少なくないだろう。結局乗り込むことができず、ホームに残されて、走り去ってゆく電車を眺める気分は悔しく、そして腹立たしいものだ。
「クラウディングアウト」も、乗りたくても乗れない人が生じてしまうこと。それが起こるのが金融市場だ。金融市場は、一般の商品と同様にお金が取引される市場で、お金を必要とする人と、貸し出す余裕のある人が集まって、融通し合っている。
「お金の価格」に相当するのが金利であり、お金に対する需要と供給でその水準が決まる。一般の商品と同様に、お金を借りたい人が増加すれば、お金の価格である金利は上昇し、反対に減少すれば金利は低下することになる。
資金の供給量には限りがあることから、借り手が極端に増えてしまうと、取り合いとなって金利が急上昇し、思うように調達ができなくなる恐れも出てくる。これが「クラウディングアウト」だ。
「クラウディングアウト」とは「押し出す」という意味で、誰かが大量に資金を借りることで、他の人を押し出してしまうというわけだ。
それでは、押し出すのは誰で、押し出されるのは誰なのか…。
押し出すのは「政府」だ。政府は、国債という借用証書を発行し、資金を借り入れる。しかし、政府が余りに大きな借金をしようとすると、民間企業などが思うように資金を調達できなくなったり、高い金利を支払わざるを得なくなったりする。つまり、政府が大量の資金を調達することで、民間企業を金融市場から押し出してしまうのだ。
電車に乗ろうとしても、政府という「大きな乗客」が車両を占領、民間企業という「乗客」は乗りたくても乗れず、どうしても乗りたい場合には、より高い金利という「特別料金」を支払わざるを得ないというわけだ。
「クラウディングアウト」が発生すると、景気が悪化する恐れが出てくる。企業の資金調達に支障が生じて経営が悪化、消費と並んで景気の両輪である設備投資も減少してしまうのだ。
もちろん、個人の場合でも、金利が上昇すれば、特に住宅購入意欲が減少、消費にもマイナスの影響を与えることになる。
資金調達という電車を占領している政府という乗客。「クラウディングアウト」が発生し、「俺たちが乗れないじゃないか!」と企業や国民から文句を言われ、景気を悪化させないためにも、一刻も早く財政赤字を減らし、電車から降りる必要があるのである。