日本政府が切り売りしているお宝は、国有財産の一つである「政府保有株式」。財務省のホームページに掲載されている政府保有株式の一覧には、「NTT」、「JT」、「日本郵政」など、かつて政府が直接運営してきた特殊法人の名前が並んでいる。政府保有株式の大半は、企業や個人がお金を払って購入する通常の株式投資とは異なり、もともと政府が所有していた特殊法人を株式会社に組織替えしたもの。
政府保有株式の代表格がNTT(日本電信電話)の株式だ。日本の電信電話事業は旧日本電信電話公社(電電公社)が独占、政府の後ろ盾の下で巨額の投資を行って電話網の整備などを進めてきた。しかし、「親方日の丸」の非効率な経営体質を抜本的に改善するために、1985年に民営化が行われた。政府はまず、電電公社を株式会社(NTT)に組織変更、その株式を100%所有する株主となる。その上で、少しずつその株式を売却、民間の株主を迎え入れることで民営化を進めてきた。
民営化の手段であった政府保有株式の売却だが、これが巨額の売却益を政府にもたらした。1987年に行われた最初の株式売却には個人投資家が飛びつき株価は高騰、政府は2兆3700億円余りの売却代金を手にする。国有財産という蔵の中に、政府保有株式という「お宝」があることが分かった政府は、NTT株式の売却益を裏付けにした公共事業を特別に実施するなど、予算不足を補う手段として活用していく。2012年度までに合計13回のNTT株式の売却を実施、総額15兆351億円の売却益が公共事業などに投入された。
これに味を占めた政府は、JT(日本たばこ産業)などの他の政府保有株式も順次売却、財源不足を補っていく。政府保有株式の売却は、民営化という本来の目的から離れ、収入不足を補うための「お宝」を切り売りしているだけになってしまった。
しかし、政府保有株式の売却には限界がある。12年10月現在、特殊会社にかかわる政府保有株式の合計は21兆8451億円だが、このうち売却が可能なのは7兆9717億円だけ。政府保有株式の中には、公共性を維持するために株主総会での「拒否権」を維持できる3分の1以上の株式を保有し続けることが義務づけられていたり、売却そのものが禁止されていたりするものもある。NTTの株式は上限一杯の3分の2を売却済み、JTの株式の売却枠も残りわずかだ。売却可能な政府保有株式の大半を占めるのは日本郵政の6兆6666億円だが、郵政事業の民営化に抵抗する動きが根強く、売却は容易ではない。売ることができる「お宝」は、あまり残されていないのだ。
未曽有の被害をもたらした東日本大震災、その復興費用を捻出するためには、政府の保有義務を緩和してでも、政府保有株式を売るべきだという声もあるが、お宝を売り続ければ、いつかは底をついてしまう。その場しのぎではなく、長期的な観点と公共性の維持を念頭に置いた政府保有株式の売却が必要なのである。