同じような懸念が持たれているのが、「財政ファイナンス」。政府の赤字を中央銀行が埋めるというもので、「国債の直接引き受け」が典型的な方法だ。政府の借用証書である国債を中央銀行が直接購入、紙幣を増刷して代金支払いに充てる。中央銀行は紙幣を好きなだけ印刷できることから、政府は実質的に無制限の融資を受けられる。つまり、日本銀行はお金を作り出す「打ち出の小づち」であり、これを使って、政府の借金を穴埋めするのが財政ファイナンスなのである。
しかし、融資先が政府であっても返済が確約されているわけではない。返済されないことを承知で融資を続けることは、中央銀行に損失を与え、信用力を低下させる。中央銀行の信用力低下は発行する紙幣の信用力低下、つまり「インフレ」を生み出し、最悪の場合には「ハイパーインフレ」が発生、紙幣が紙切れになり貨幣経済が崩壊してしまう。安易な融資姿勢が経営者としての友人と父親の銀行をダメにするように、財政ファイナンスも政府の放漫財政を許すだけでなく、中央銀行の信用に深刻な影響を与えかねないものなのだ。
こうしたことから、財政ファイナンスは、多くの国で禁止されている。日本でも財政法第5条で、日本銀行が国債を直接引き受けることを禁止しているのだが、実際には財政ファイナンスと大差のない取引が行われている。国債を直接引き受けることはできない日本銀行だが、すでに発行されて流通している国債(既発国債)の購入には制限がない。そこで既発国債を日本銀行が大量購入、これによって新発国債の売れ行きを向上させ、政府がお金を借りやすくする仕組みだ。
2012年12月、再び政権の座に就いた安倍晋三総理は、自らと考えを同じくする黒田東彦を日本銀行総裁に据えた。黒田総裁による「異次元の金融緩和」の一環として、日本銀行は毎月7兆円という膨大な額の既発国債の購入を実施、紙幣の大量発行を開始する。これは事実上の財政ファイナンスであり、許されないことだとの批判が上がった。
こうした中、麻生太郎財務大臣は13年6月の講演で「日本は自国通貨で国債を発行している。(日銀券を)刷って返せばいい。簡単だろ」と発言した。財政ファイナンスを容認する開き直りにも聞こえる発言に、講演会場はどよめいたが、即座に際限のない通貨発行を否定したことから、騒ぎは収まったという。一方、黒田日銀総裁も大量の国債購入を「財政ファイナンスとは明確に一線を画すもの」と国会で答弁し、批判は的外れであると強調している。
打ち出の小づちを振り回して、借金の穴埋めをする財政ファイナンス。民間なら許されない行為だが、国家なら許容されるのか? 財政ファイナンスを巡る議論が続いている。