「チャプター11」とは、経営が行き詰まった企業の処理を定めた連邦破産法の中の第11条(章)のこと。2008年9月のリーマン・ブラザーズの経営破綻が、“Lehman Brothers filed for Chapter 11”と伝えられたように、企業がその適用を裁判所に申請することで、事実上の経営破綻となる。こうしたことから、「チャプター11」という言葉が、「倒産」「経営破綻」とほとんど同じ意味で使われることが多くなっているのだ。
しかし、連邦破産法第11条の適用申請は、「企業の死」を意味するものではない。第11条のタイトルが“Reorganization”(更生)であることからも分かるように、その手続きは経営破綻した企業を消滅させるのではなく、事業を継続しながら再建を進めるというもので、日本の「民事再生法」に相当する。
連邦破産法第11条の適用が申請され、裁判所がそれを受理すると、「救済命令」が出される。これによって、会社の資産は保護され、労働者の賃金もとりあえず確保される。その上で再建計画が立てられるが、その際に借金の一部免除や、返済の必要のない株式に変えることなどによって、負債の削減などが行われる。融資をしていた債権者にとっては大きな損失だ。また、株式は紙くず同然になる場合が大半で、株主にも大きな損失が発生する。
一方、経営破綻した企業については、その再建計画で事業の大幅な縮小や売却、それに伴う人員削減など、抜本的なリストラが行われる。しかし、原則として従来通りの業務が行われることから、従業員が即座に職を失うわけではない。また、経営者についても必ずしも辞める必要がないことから、そのままのポストにとどまり経営を続けることも珍しくない。債権者や株主の大きな損失に比べて、経営破綻した企業の経営者や従業員は優遇されているのだ。これは、連邦破産法第11条の目的が企業の再建にあり、これを実現するために債権者や株主に、多くの負担を強いるものになっているからなのだ。
連邦破産法第11条によって、これまでも多くの企業がよみがえってきた。その一例が、01年のアメリカ同時多発テロ後の利用客激減で、経営に行き詰まったユナイテッド航空などの航空各社だ。連邦破産法第11条の適用を受けた後も、航空各社は従来と変わらぬ運航を継続しながら経営再建を進め、見事に再生を果たしたのだった。
これに対して、同じ連邦破産法でも第7条は、経営破綻した企業に対して厳しい措置がとられる。連邦破産法第7条のタイトルは“Liquidation”(清算)、企業を救済するのではなく、解体して消滅させてしまうものだ。こちらは企業にとっての「死刑宣告」であり、経営者や従業員はすべて職を失い、会社の財産もすべて債権者に分配されることになる。経営破綻した企業にとって、適用されるのが連邦破産法の第11条なのか第7条なのかは、天国と地獄ほどの差があるのである。
リーマン・ブラザーズの「チャプター11」をきっかけとして、深刻さを増したアメリカの金融危機。その後も、連日のように連邦破産法適用のニュースが伝えられ、自動車メーカーの「ビッグ3」にもその可能性が取りざたされている。アメリカの企業は、どん底からよみがえることができるのか? その鍵を握っているのが、連邦破産法第11条(チャプター11)なのである。