企業を大きな船と考えてみよう。社長が船長、従業員が乗組員、モノを作って販売するといった企業活動が船を走らせることで、燃料はそこからあげた利益で購入する。経営が順調なら燃料も十分に確保できるが、経営不振に陥ると、燃料が思うように買えなくなり、借金という余計な荷物も増加、次第に速度が落ち、ついに燃料が切れて動けなくなってしまう。この状態が「倒産」だ。
「倒産」とは、企業が通常の活動を継続できなくなり、借金返済も不可能になった状態を示しているのである。
企業が倒産に追い込まれるケースは、いくつかの種類がある。
まず、資金繰りに行き詰まった場合で、小切手や手形の支払いができなくなる不渡りを出してしまうのが一般的だ。銀行は1回目の不渡りについては猶予を与えてくれるが、その後6カ月以内に再び不渡りを出すと、取引停止処分を下す。これによって、企業は経営に不可欠な当座預金の取引ができなくなり、新規の融資も受けられなくなる。燃料の供給が絶たれてしまい、船は止まってしまうことになるわけだ。
一方、経営者が自らの判断で経営の継続を断念する場合もある。船長が「もう駄目だ…」と、自らの判断でエンジンを止めてしまうのだ。具体的には、会社更生法や民事再生法などの適用を、裁判所に申請することが多い。
様々な形をとる「倒産」だが、あくまで船が止まってしまった状態であり、沈没したわけではない。「沈没」、つまり企業が消滅してしまうかどうかは、その後の処理の仕方で決まってくる。
倒産した企業の処理は、大きく分けて二つある。「清算型処理」と「再建型処理」だ。
清算型処理には、破産法に基づいた「破産手続き」や会社法に基づいた「特別清算」の他、関係者が話し合いで決める「任意整理」(私的整理)の多くも含まれる。
清算型処理は文字通り、企業を清算してしまうこと。企業が保有している不動産、現金や株式、さらには机や椅子、パソコンなど、会社に残されたすべての財産が処分され、そこで得られた資金を、お金を借りていた債権者たちへの返済に充てる。そして、社長も従業員も職場を失い、企業は消滅する。金目のものをすべて運び出された船は、解体されて沈没、船長も乗組員も海に放り出されてしまうのだ。
一方、再建型処理は企業を何とか存続させようとするもので、最もよく知られているのが、会社更生法による処理だ。経営不振になり、事業の継続が不可能だと判断した経営者(まれに融資をしている銀行や従業員)が、裁判所に会社更生法の適用を申請する。
通常、企業が倒産すると、債権者たちが押し寄せて、「金を返せ!返せないなら、このパソコンをもらって行くぞ!」と、残っていた商品や会社の備品などを無理矢理持ち出し、自動的に会社が消滅してしまうことが多い。ところが、会社更生法が適用されると、会社の財産は裁判所によって保全され、借金の大半は棒引き(免除)、従業員にも賃金が支払われ、企業活動も継続される。その一方で、経営者は総退陣、株式は紙くずとなり、会社の経営は、裁判所から派遣された更生管財人に委ねられる。動けなくなった「船」が沈まないように保護すると当時に、経営陣という「船長」と株主という「乗客」を海に放り出す。そして、新しい「船長」の下で、「船」が再び動き出せるように「修理」する。これが、会社更生法による倒産企業の処理なのである。
民事再生法は2000年4月にスタートした倒産企業の処理で、基本的な手続きは会社更生法と同じだが、経営陣が続投できるなど、適用条件が緩い。このため、会社更生法より、民事再生法を選択する経営者が多いのが現状だ。
もちろん、「再建型処理」による企業再生の道のりは厳しい。まず、会社の事業を徹底的に見直し、利益があがると期待できる分野以外は切り離す、という大胆なリストラが断行され、従業員の大規模な解雇も避けられない。1000人乗りの豪華客船を、300人乗りの実用的な船に改修するといったことが行われるというわけだ。こうしてよみがえった企業には、筑摩書房や吉野家などがあるが、一方で結局再建ができず、清算されて消滅する企業も多い。改修に成功して、再び大海原を航行する船がある一方で、結局沈んでしまうものも少なくないのだ。
「倒産」はそのまま企業の「死」を意味するわけではない。「再建型処理」が適用されれば、再生への道のりは開けるのだ。しかし、倒産した企業の中で、「再建型処理」が適用されるのは5%未満であり、大半が清算されて消滅していく。「倒産」は企業の「死」ではないが、言葉のイメージ通り、企業への「死刑宣告」に等しいものなのである。