航空機事故が発生した場合、副操縦士が操縦桿(かん)を握っていると、それが事故の原因であるかのように指摘されることがある。しかし、機長に代わって副操縦士が操縦桿を握ることは日常的に行われている合法的なもの。副操縦士も十分な操縦技術を持っていて、機長と役割を分担することで、より安全な飛行が可能となる。
FRB議長の役割は、旅客機の副操縦士と似ている。アメリカ経済を、国民を乗せた巨大な旅客機と考えると、コックピットで経済政策という「操縦」を行っているのは、大統領という「機長」とFRB議長という「副操縦士」となる。しかし、FRB議長は単なる機長の補佐役ではなく、極めて重要な役割を担っているのだ。
大統領は、財務長官らの政策スタッフと力を合わせ、財政支出や税制変更などの広範囲な経済政策を打ち出し、旅客機が安定して飛行できるように努力する。
一方、FRB議長の任務は、金融政策のかじ取りだ。FRB(Federal Reserve Board 連邦準備制度理事会)は、アメリカの金融政策を決定する機関であり、「議長」がその責任者となる(FRBは日本だけの略語で、本国では“Fed”と略される)。
FRB議長は「アメリカの中央銀行総裁」であり、金融政策を決定するFOMC(Federal Open Market Committee 連邦公開市場委員会)をリードする。
FOMCでは、アメリカの政策金利であるフェデラルファンド金利(FF金利)の水準や、マネーの供給量を決定する。「燃料」であるマネーを安定供給することで、旅客機が順調に飛行できるようにするのだ。
FRBは同時に、民間金融機関の経営を監視し、場合によっては資金援助などによって経営を支える。マネーという燃料を実際に供給するのは民間金融機関だ。金融機関の経営が悪化した場合、燃料の供給が滞り経済が混乱する恐れがある。このため、FRB議長は、旅客機が燃料不足で墜落しないように、細心の注意を払って金融政策という操縦を行っているのだ。
FRBの政策は経済に大きな影響を与えるため、投資家やトレーダーたちは、いち早くその動きを読み取るために、FRB議長の発言に聞き耳を立てる。中でも注目されるのは、年2回行われる「議会証言」だ。
FRB議長はこの場で、経済情勢を分析した上で、金融政策の方針を説明する。そのメッセージは今後の金融政策を読み取る上で極めて重要で、株価やドル相場を大きく動かすことも珍しくないのだ。
コックピットの隣の席に座るFRB議長の操縦方針に対して、機長である大統領は口出しをすることができない。金融政策が大統領の言いなりになってしまうと、政府の財政赤字を埋めるために、紙幣を大量発行させるといったことが行われ、結果的に経済のバランスが失われる恐れがあるからだ。FRB議長は副操縦士だが、その役割は機長とは明確に分けられていて、独自の判断で操縦をしているのである。
旅客機では、乗務する2人の操縦士が共に機長の資格を持っている場合があり、これを「ダブルキャプテン」と呼んでいる。大統領とFRB議長の関係も、この「ダブルキャプテン」に近いと言えるだろう。
2008年からの深刻な経済危機に直面している、アメリカ経済という旅客機で操縦桿を握るのは、バーナンキFRB議長。「ゼロ金利政策」「量的金融緩和」「長期国債買い取り」といった大胆な政策を打ち出し、懸命に操縦桿を引いているが、「100年に1度」という経済乱気流を乗り越え、機体を立て直せるのか?その手腕が問われている。