アメリカで少々高額の買い物をしようとした時のこと、クレジットカードで支払おうとしても信用してもらえず、店の主人はドルの現金でないと売れないと譲らなかったのだ。
見も知らぬ日本人と高額の取引を行うのだから、不安になるのも無理からぬこと。信用してもらうためには、現金、それも日本円ではなくドルを見せるしかなかったのだ。
国と国との貿易や資本の取引でも同じことが言える。国が十分な外貨を保有していれば信用力も高まり、貿易も円滑に進む。そこで、国が十分な外貨を保有し、いざという時にはそれを使って支払いに充てる準備をしておく。これが「外貨準備」だ。
外貨準備は、政府や中央銀行などの公的な機関が保有する外貨資産の合計で、民間の銀行や企業が保有するものは含まれない。「外貨準備」とは、「国が保有している外貨預金」と考えることができるのだ。
日本の外貨準備は、2008年2月末現在で1兆ドルを突破、中国に次いで世界2位の規模を持っている。「中国に追い越されてしまったのか…」とがっかりしてはいけない。外貨準備が、その国の経済力を示すわけではないのだ。
外貨準備を増やすためには、外貨預金と同様に、手持ちの円をドルなどの外貨に換えればよい。問題はその元手だ。
日本の場合、元手となる円は、政府短期証券(FB financial bills)を発行して調達している。つまり、借金で外貨預金を作っているのだ。したがって、外貨準備を増やそうとすればいくらでも増やすことが可能であり、外貨準備の大きい国がお金持ちということにはならないのである。
信用力の乏しい発展途上国とは異なり、日本や中国などの経済大国の外貨準備の増減は、外国為替市場における市場介入の影響が大きい。
為替相場が大きく変動した場合、政府や中央銀行などの通貨当局は、市場介入を行って鎮静化を図る。例えば、円高・ドル安を抑制するためには、通貨当局自身が外国為替市場でドルを買って円を売る。この場合、通貨当局は、政府短期証券を発行して円を調達し、これを外国為替市場でドルに換えて、外貨準備に計上することになる。反対に、ドル高・円安を抑制するためには、外貨準備からドルを引き出して円に交換、ドル・円相場の上昇を抑えるとともに、手に入れた円で政府短期証券を返済するのだ。
日本の場合、特に03~04年にかけて、円高を食い止めるために総額35兆円という巨額の円売り・ドル買い介入をしたことで、外貨準備が急増した。中国も同様で、急激な人民元の上昇を抑えるために、ドル買い・人民元売りの市場介入を実施したことが、外貨準備を急増させる要因となっているのだ。
巨額の外貨準備を持つ日本だが、その活用方法は十分ではない。中国は、外貨準備を使ってアメリカの企業に投資するなど、積極的な活用を始めている。
これに対して日本は、アメリカ国債などその運用先は限定的。外貨預金同様に、円高・ドル安が進めば、外貨準備の価値も目減りしてしまうことから、新たな運用方法を模索すべきだという声が強まっている。
「外貨準備」は、国の信用力を高めるために必要なものだ。しかし、本当にこれだけの規模が必要なのか。もっと有効な活用方法はないのか。「外貨準備」を巡る議論は、今後活発になっていくだろう。