学生時代の友人が切羽詰まった様子で電話をしてきた。経営している会社の資金繰りが悪化、銀行に融資を申し込むと、連帯保証人を立てることを求められたというのだ。
金融機関から融資を受ける場合、連帯保証人を求められることが少なくない。借り手が返済不能になった場合、代わりに返済してくれる連帯保証人がいれば、焦げ付きのリスクが低下、金融機関は融資が実行しやすくなる。しかし、連帯保証人を見つけるのは容易ではなく、融資を受けられずに、倒産に追い込まれる中小企業も多い。
「誰か連帯保証人になってください!」という、中小企業経営者の声に応えて打ち出されたのが、政府の「緊急保証制度」だ。
中小企業が融資を受ける場合、「信用保証協会」に融資の保証をしてもらうことが一般的だ。企業が融資を返済できなくなった場合には、信用保証協会が代わりに金融機関に返済(代位弁済)を行う。信用保証協会が連帯保証人になってくれることから、金融機関は安心して融資できるというわけだ。
しかし、信用保証協会は無制限に保証することはできない。信用保証協会は、保証を実施する場合に企業から徴収する保証料などを基に運営されている公益法人。返済の可能性がない企業に安易に信用保証を行えば、財源がすぐに底をついてしまうため、厳格な審査が実施される。保証の実行までには時間がかかり、場合によっては保証額が減らされることもある。その結果、資金繰りに行き詰まり倒産する中小企業も出てきてしまうのだ。
こうした事態を緩和するために打ち出されたのが、緊急保証制度だ。中小企業向けの信用保証枠を政府が独自に設定し、中小企業の資金繰りを援助しようというわけなのである。
政府は景気対策の目玉の一つとして、2008年度の第1次補正予算で6兆円の緊急保証枠を設定、続く第2次補正予算で20兆円にまで拡大させた。緊急保証の限度額を拡大させても、当面の支出はゼロ、限度枠の拡大はタダで実行できるので、大盤振る舞いが可能なのだ。
しかし、これは危険な考え方だ。融資の保証をした企業の倒産が増えれば、金融機関から政府への支払い請求が急増する。その段階になって、政府が大慌てすることになりかねないのだ。
また、制度が悪用されるケースもある。最初から返済するつもりがなく、融資を受けた途端に会社を倒産させて、お金を持ち逃げするという場合もあるのだ。
そうした危ぐが現実になったのが、1998年10月に政府が打ち出した中小企業金融安定化特別保証制度だった。緊急保証制度とよく似たこの制度の総額は30兆円、迅速な保証の実行を優先したため、事実上の無審査となった。この結果、政府は2兆円を超える代位弁済を実施するが、この中に「融資の借り逃げ」などの不正が相当額含まれていて、大切な税金が闇に消えたと批判されたのだった。
こうした反省をふまえ、緊急保証制度の場合には、保証をするかどうかの審査を信用保証協会が実施している。このため、「審査に時間がかかり、間に合わない」とか、「保証額が削られた」といった不満が出ているのが現状なのだ。
政府が連帯保証人となってくれる緊急保証制度は、中小企業にとってありがたい制度だ。しかし、安易に運用すればその損失は政府が負い、税金が投入されることになる。融資が次々に焦げ付き、巨額の保証を求められた政府が、「連帯保証人になるんじゃなかった…」と悲鳴を上げないためにも、迅速で的確な審査バランスのとれた制度運用が必要なのである。