株主総会の多くは、現経営陣が提出した議案の是非を、株主に問うかたちとなる。候補者が一人だけの「信任投票」となるわけだ。ところが、時に「対抗馬」が現れることがある。株主が独自の提案を行い、経営者側と対立するのだ。これによって、株主総会は「信任投票」から、より多くの株主の賛同(議決権)を獲得しようという「選挙戦」へと突入することになる。
投票に相当する議決権の行使は、株主総会で行われるが、出席できない株主もいることから、委任状(proxy)によって、議決権を委ねることができる。選挙の「不在者投票」のようなものだが、これを利用して、事前に多数派工作が行われる場合が多いことから、株主総会での対立的な議決権行使合戦そのものを、委任状争奪戦(proxy fight プロキシファイト)と呼ぶようになった。
経営陣に対立する議案を提出するのは、その企業の経営権を奪おうとしている企業や投資家の場合が多い。その典型が、村上ファンドや、スティールパートナーズなどの企業買収ファンドである。
企業を買収するには、TOB(株式公開買い付け)などによって、その会社の株式を買い占めるのが一般的だ。株主総会で議決権を行使する株主を「買収」するわけだが、これには多額のお金が必要だ。
これに対して、委任状争奪戦によって、他の株主の賛同を得れば、お金をかけずに企業の経営権を握ることができる。このため、説得力があり、株主の利益に直結する経営戦略(マニフェストのようなものだ)を示して、自らの提案に投票してくれるよう呼びかけることになる。企業買収ファンドの多くは、ある程度の株式を買い集めた上で、足りない分を委任状争奪戦によって補い、経営権の獲得を目指すことが多い。
委任状争奪戦の「勝敗ライン」は、議案の内容によって異なってくる。取締役の選任などは、出席した株主の過半数だが、経営の根幹にかかわる重要なものは、「特別決議」と呼ばれ、3分の2の賛同がなければ承認されない。しかし現実には、突然現れた第三者の提案に即座に賛同する株主は多くなく、委任状争奪戦で買収者が勝利した例はほとんどなかった。
しかし、3分の2の議決権が必要だというのは、現経営陣にとっても同じこと。もし買収者が3分の1超の議決権を獲得してしまうと、現経営陣の「特別決議」も承認されなくなってしまう。つまり、買収者側が事実上の「拒否権」を持ってしまうのだ。したがって、3分の1の議決権を持つかどうかは、株主総会、そして企業経営の重要なポイントとなるのである。
かつて「しゃんしゃん総会」と呼ばれたように、株主総会は現経営陣の提案を拍手で承認し、1時間程度で終わるのが当たり前であった。しかし、最近では株主の「有権者意識」の高まりとあわせて、経営方針のみならず、経営そのものについての真剣な議論が展開されるようになった。株主の利益になる経営戦略は何か、経営は誰に任せるべきなのか…。
株主総会の場で、委任状争奪戦という「熱い選挙戦」が展開されることが、今後増えていくことになりそうだ。
金融政策決定会合
日本銀行(日銀)の最高意思決定機関である、政策委員会が、原則として毎月1~2回程度開催する会合。経済情勢について見解を示し、金融政策の方針を決定する。日銀総裁、民間選出の審議委員ら計9人のほか、政府の経済、金融担当者が出席するが、政府関係者に議決権はない。