これが「リコール」である。製品に欠陥や不具合が判明した場合、無償で修理や交換を行うというもの。「給湯器が不完全燃焼を起こす恐れがある」といった製品の設計や製造過程での問題点が判明して修理や回収を行うことのみならず、「スーパーで買ったトマトが傷んでいた」といった場合に返品に応じるのも、広い意味でのリコールといえる。
メーカーの自主判断に委ねられている場合が多いリコールだが、自動車については、人命にかかわるものであることから、法律で制度化されている。道路運送車両法の中に、基本的な安全基準である「保安基準」が定められている。もし、欠陥や問題点が発覚し、その結果としてこの基準を満たせなくなる恐れがある場合には、リコールを国土交通省に届け出て、無償で修理や交換などの対策を実行することが義務づけられている。パスタの中に腐った食材が紛れ込んだことが判明し、食中毒を起こす恐れがあるので作り直すというのが、自動車のリコールなのである。
しかし、欠陥や問題点が判明しても、すべてがリコールになるわけではない。保安基準の不適合を引き起こすほどではなく、危険度も低い場合には、「改善対策」が実行される。リコール同様に、国土交通省に届け出た上で自動車を回収し無料で修理することになるが、緊急性も低くなる。食中毒を引き起こすほどではないが、少し味に問題があり、念のためにパスタを作り直すというのが改善対策である。さらに問題点が小さい場合は「サービスキャンペーン」が実施される。事故に発展する恐れはないが、商品性や品質の向上のために、メーカーが自主的に修理改修を行うというもの。「アルデンテですが、固すぎるようですので、よろしければ作り直します」というのがサービスキャンペーンなのだ。
リコールは信用度を下げ、大きな費用も発生するから、なるべく避けたいのがメーカーの本音だ。しかし、これを隠蔽(いんぺい)した場合には、信用をより一層失うことになる。その一方で、安易に製品の欠陥を認めてリコールを表明すると、一部の消費者に悪用される恐れもある。
2010年2月に表面化したトヨタのプリウスのリコール問題は、その典型といえる。「ブレーキが効きにくい」というユーザーの指摘に、技術陣は「感覚の問題」であり、リコールは不要だとしていた。しかし、これが「リコール隠し」との強い批判を受け、結局は豊田章男社長がリコール実施を発表した。社長自らが欠陥を認めたことから、ブレーキが原因ではないのにブレーキが効かずに事故になったと主張するユーザーまで出る事態となった。「これはアルデンテです」と主張していたトヨタの技術陣(シェフ)だったが、結局は社長という店長が「生煮えでした。作り直します」と謝罪した。その結果、「この店のパスタを食べたから、お腹をこわした」と、リコールに便乗するユーザーまで現れることになったのだ。
法律に基づいたリコールについては、自動車以外にも、消費生活用製品安全法によって、ガス湯沸かし器がリコールされたケースがあるが、基本的にはメーカーの自主性に委ねられているのが現状である。正しく運用すれば「誠実な対応だ」と、消費者の信頼を高めることも可能となるリコール。「アルデンテにしては固すぎる」とのクレームを受けたら真摯に対応、十分に問題点を検証した上ですべての情報を公開し、消費者との信頼関係を高めて行くことが重要なのである。