近年、企業経営者の間で、流行語ともなっているCSRも、同じような考え方に基づいている。CSRは、corporate social responsibilityの略で、日本語に訳すと「企業の社会的責任」となるが、略語の方が一般的となっている。
企業は、利益の追求が基本的な行動基準だ。しかし、それだけでいいのだろうか? 企業も社会の一員であり、その行動には高いモラルも求められるべきではないのか…。こうした考え方を具体化したものが、CSRなのである。
CSRの概念が生まれるきっかけとなったのが、アメリカで続いた巨大企業のスキャンダルであった。エネルギー企業のエンロンや、通信会社のワールドコムなど、アメリカを代表する巨大企業が、粉飾決算などの法令違反を犯して経営破綻、経済に大きな打撃を与えるとともに、アメリカ企業全体に対する深刻な不信感を生み出した。この反省から、企業により高いモラルと法令順守の姿勢を求めるべきとの声が強まる。これが、CSRという形となり、企業の間で流行するようになったというわけである。
しかし、CSRはあくまで考え方の一つで、明確な基準があるわけではない。法令順守(コンプライアンス)、環境への配慮、積極的な社会活動など、さまざまな項目が考えられ、それは個々の企業によっても異なる。また、その範囲も、企業が直接かかわる従業員や株主、取引先などだけではなく、より広範囲な関係者を含むものだが、これまた明確な基準はない。つまり、CSRとは、企業の「社是」「社訓」、あるいは「モットー」のようなものであり、宝塚歌劇団の「清く正しく美しく」と同じようなものだと考えればよい。
CSRを実行していくためには、より多くのコストがかかったり、利益を得るチャンスを失ったりする場合もある。したがって、純粋に利益面だけを考えれば、CSRは企業にとってマイナスになると思われがちだ。ところが、実際には企業経営や利益の面でも、プラスに作用し、株価も高くなるということがわかり始めたのである。
CSRと似た言葉に、社会的責任投資(socially responsible investment)、略してSRIがある。これは、CSRを重視する企業の株式を積極的に買い、応援するべきだという考えに基づいた投資方法だ。実は、これが、大きな利益を上げる投資方法であることがわかってきた。CSRに熱心な企業は好感度が上がり、より大きな消費者の信頼を獲得し、売り上げがアップする。その結果、株価も上がり、投資が成功する場合が多いのだ。
その一例が、環境に配慮している企業への投資を行う「エコファンド」などだが、こうしたファンドの利益率はおおむね高く、CSRが企業の株価に良い影響を与えていることを示す結果となっている。SRI先進国のアメリカでは、企業のCSRの度合いを数値化し、企業の売り上げや利益などと同様に扱う動きも広がっているのである。
イギリスやフランスでは、担当大臣が置かれるほど、欧米では浸透しているCSRだが、日本ではまだまだといった状況だ。しかし、世界経済のグローバル化が進む中、CSRに無頓着な企業は、競争に敗れ、淘汰される恐れもある。
「清く正しく美しく」というCSRのモットーこそ、企業が成長していくための必須条件なのかもしれない。