確かに、一等地でもワンルーム(1R)25m2、2500万円なら何とか買えるかもしれない。1億円のマンションを買える人は限られているが、2500万円なら購入対象者は一気に増え、もう少し高くても売れるかもしれない。販売業者としては、1戸1億円で売却するより、4戸に分割した方が、利益が増える可能性もあるだろう。
株式市場でも同じことが言える。それが「株式分割」だ。その方法は単純で、1株を2株、4株などに分割するだけのこと。
今、1株10万円のA社の株式があるとしよう。これを4分割する場合、理論的には株価は4分の1の2万5000円となるが、株数は4株に増えるので、合計はプラスマイナスゼロだ。
株式には、会社の経営陣の人選や経営方針の決定などの「議決権」がある。分割によって議決権も4倍になるが、全体の議決権も4倍になることから、実態としては何も変わらない。
配当は、分割比率に応じて4分の1になる場合が多いが、利益を還元する目的であえて据え置き、分割前に予定していた4倍の配当を支払うこともある。
株式分割のメリットは、株価を下げることで、誰でも株式を買えるようにすることだ。これによって、今までは高すぎて手を出せなかった個人投資家へも裾野を広げ、取引が活発化、結果的に株価の上昇も期待できるのだ。
また、株式分割によって、保有する株式の一部を売却することも可能であり、従来からの株主にとってもメリットが大きい。
株式分割とは、4LDKで100m2、時価1億円の住戸を、25m2の4戸の1Rに改築すること。これによって価格が2500万円に下がれば、購入対象者が一気に拡大、結果的に値段が上がる可能性がある。また、4戸のうち1戸だけを売って現金化することもできるなど、自由度が格段に拡大するというわけだ。
こうしたことから、一般的には株式分割が行われると、株価が高くなることが多い。株価1万円の株式を4分割すれば、理論上の株価は2500円だが、買いやすくなったことで、例えば2700円となり、トータルで1万800円と、会社の業績や実態が何も変わらないにもかかわらず、株価が上昇することが少なくないのだ。
株式分割を徹底的に利用し、株価をつり上げていったのがライブドアだった。ライブドアは、オン・ザ・エッヂという社名で株式を上場した2000年4月以降、01年5月に3分割、03年5月に10分割、11月に100分割、続く04年に10分割の株式分割を発表した。つまり、上場時の1株は→3株→30株→3000株→3万株へと細分化されていったのだ。
これは、100m2の住戸を3万分の1のわずか0.003m2と、とてつもなく小さく切り刻んだことに他ならない。ところが、この極小の部屋に驚くような値段が付いた。なかでも、03年の100分割は信じがたい高騰を演じる。
分割発表前に21万2000円だった株価は、100分割によって、理論的には2120円になるはず。ところが株価は急騰し、一時1万8020円と、855%も上がったのだ。そして、最後の10分割発表後の04年7月には、1020円の高値を付けている。この時、最初の3分割前には219億円だったライブドアの会社としての価格(時価総額)は、6183億円に脹れ上がっていた。
これがホリエモンを大金持ちに変え、フジテレビの買収を画策するほどの財力をライブドアに与えたのである。
ライブドア事件の教訓から、5分割以上の株式分割を抑制する一方、株券の一時的な不足による値上がりを防ぐ対策もとられたことで、異常な株式分割は影を潜めている。100m24LDKの住戸を分割するのは良いが、せいぜい20m2の1Rまでで、それ以上切り刻んで人が住めないような分譲方法は許されなくなったのだ。
株式分割は、株価の流動性を高め、投資家の裾野を広げることができる。しかし、それが度を過ぎると、バブルの様相を呈し、異常な株価が形成されてしまう恐れがある。安易な株式分割は結局投資家の不利益につながるだけに、十分に注意しておく必要があるのだ。