ところが、株主総会での「選挙」に相当する議決権の行使には、専門のアドバイザーが存在する。「議決権行使助言会社」だ。
株主総会では株主が保有する株式に応じて与えられた議決権を「投票」によって行使し、経営方針の決定や経営者となる取締役などを選任する議案を「選挙」で採決する。そのときに、議決権行使助言会社は、専門的な知識と経験を駆使し、議案に賛成すべきかどうか、対立する複数の議案が出されている場合には、どちらを選択すべきかを株主にアドバイスしている。
株主総会では、経営陣から提案された議案について、株主に賛否を問う「信任投票」によって半ば自動的に承認されることが多い。しかし、議決権行使助言会社は経営方針や経営陣の実績・資質について疑問を投げかけ、議案を承認すべきではないと株主にアドバイスして、会社の経営を大きく変えてしまうことがあるのだ。
議決権行使助言会社の影響が最も強く発揮されるのが、経営方針や経営権を巡って相対する議案が提示され、どちらを選ぶかを株主の議決に委ねるプロキシファイト(委任状争奪戦)の場合だ。提案者がそれぞれに、「私の議案に投票してください!」と「選挙運動」が展開される中、議決権行使助言会社はどちらの議案を支持するのが株主の利益になるかをアドバイスし、これによって株主総会での「選挙結果」が左右される場合がある。
ソフトバンクがアメリカの大手携帯電話会社スプリント・ネクステルの買収に成功した背景にも、議決権行使助言会社の存在があった。当初はソフトバンクの買収提案に難色を示していた株主も多かったが、議決権行使助言会社がソフトバンク支持を表明したことで流れが変わり、買収実現を後押ししたとされている。
議決権行使助言会社の存在は、2015年3月27日に行われた大塚家具の株主総会でもクローズアップされた。大塚家具の株主総会では、創業者で会長の大塚勝久氏と、その娘で社長の久美子氏が、それぞれに自分が経営者になった場合の経営戦略や株主優遇策など示した議案を提示して株主に支持を訴えた。経営戦略という「マニフェスト」を提示し合い、有権者である株主に支持を訴えるという「選挙戦」は、久美子氏が勝利したが、その陰には議決権行使助言会社のアドバイスがあった。議決権行使助言会社は、久美子氏の経営方針を評価する一方で、勝久氏のそれは説得力に欠けるなどと表明、これを受けて欧米の投資家を中心に久美子氏支持が増加して勝利に導いたというのだ。
株主総会での「選挙結果」を左右する存在として、存在感を高め始めた議決権行使助言会社。現在はInstitutional Shareholder Services(ISS)などの欧米の会社が大きなシェアを持っているが、今後は日本勢を含めて新規参入も増え、様々な形で株主へのアドバイスが行われるようになりそうだ。