企業経営でも同じようなことが起こっている。「粉飾決算」だ。粉飾決算は、不正な会計処理によって収支を偽装し、虚偽の決算報告を行うこと。最も多いのが利益の水増しで、業績不振で赤字であるにもかかわらず、売り上げを過剰に計上したり、費用を過小に計上したりすることで、無理やり黒字にしてしまう。また、大きな損失が発生した場合には、子会社に移し替える「飛ばし」によって、隠蔽することもある。年齢を偽ったり、スキャンダルをもみ消したりして、人気を維持しようとするのが粉飾決算なのだ。
企業が粉飾決算に手を染める理由は様々だ。決算が赤字になると信用が低下して仕事が減ったり、株価が下落したりするほか、銀行から融資の返済を迫られることもある。また、赤字転落の責任を問われることになるため、経営者が自己保身の目的で粉飾決算を命じることも少なくない。
粉飾決算は企業の信頼を根底から崩すと同時に、投資家や取引先を裏切る行為だが、外部からこれを確認することは困難だ。そこで透明性を確保するために、決算には監査法人のチェックが義務付けられるほか、社内に独立した監視組織を持つ企業もある。しかし、こうしたチェックが不十分な場合も少なくなく、粉飾決算は後を絶たない。
日本では山一證券やカネボウなどが粉飾決算を行い、結果的に経営破綻に追い込まれた。日本に比べて企業統治が徹底していると思われているアメリカでも事情は同じだ。エネルギー企業のエンロンは、2000年度の売上げが全米7位などとしていたが、これが粉飾決算で、真実が明らかになった01年10月からわずか2カ月後に経営破綻する。投資家の間に「他にも粉飾決算企業があるのでは?」という不安をもたらし、株式市場が大きく下落する「エンロンショック」を引き起こしたが、さらに、その翌年には巨大電気通信事業者だったワールドコムに粉飾決算が発覚して経営破綻する。世界的な人気を博していたハリウッドスターの相次ぐスキャンダルに、全世界の株式市場が大きなダメージを受けたのだった。
粉飾決算が明らかになると、経営者が逮捕されるなどの刑事事件に発展する可能性があるほか、株式市場に上場している場合には「上場廃止」という厳罰を受けることもある。涙ながらに謝罪するだけでは許されず、アイドルグループから追放されることにもなりかねない。それでも粉飾決算が続くのは、経営者が経営状況を少しでも良く見せたいという短絡的な思いを抑え切れないからなのだろう。
15年7月、東芝に、7年間で1518億円という巨額の利益水増しが発覚した。赤字を黒字と偽ったものではないため「不適切会計」「不正会計」などと報道されているが、事実上の「粉飾決算」だ。日本を代表する「大スター」が、大きなウソをつき続けてきた衝撃は大きく、失われた信用は計り知れないのである。