不祥事を引き起こした企業が、必ずと言っていいほど引き合いに出すのが「コーポレート・ガバナンス」という言葉だ。訳語の「企業統治」ではなく、「コーポレート・ガバナンス」とそのまま使われることが多いこの言葉は、欧米で1990年代前半に使われ始め、日本で使われるようになったのは、90年代後半になってのことである。
コーポレート・ガバナンスを理解するために、企業を「子供」に置き換えてみよう。
企業という「子供」は、利益という「成績」を上げようとするが、同時に政府という「先生」の言いつけに従い、会社法を始めとする「校則」を守り、他の子供たちとの協調性も求められる。こうしたモラルが守られなければ、どんなに利益を上げても、その企業の存在は、社会的に認められなくなる。
そこで、不正行為の防止などといった社内のチェック体制の構築など、モラルを守る仕組み全体を「コーポレート・ガバナンス」と呼んで、その順守が図られるようになったのである。
コーポレート・ガバナンスの中でも、中核をなすのが「コンプライアンス」だ。「法令順守」と訳される「コンプライアンス」は、その名の通り、企業が守るべき法律をきちんと守るということであり、さらには法律を超えた高い倫理観を持つべきだという考え方だ。
企業活動が社会的に認められるためには、コンプライアンスは絶対に守るべきものであり、これを無視した企業は、厳しい批判を受け、最悪の場合、企業の存続が不可能になってしまう。「校則」を破った子供は厳しく罰せられ、場合によっては「退学」させられてしまうのだ。
コーポレート・ガバナンスにはこの他、企業活動の状況を包み隠さず公開する「ディスクロージャー」も含まれる。また、これを実現するために、企業自身がしっかりとしたシステムを持つ「内部統制システム」や、「社外取締役」などによる監査システムの構築などによって、コーポレート・ガバナンスを徹底させることも求められている。
また、コーポレート・ガバナンスは、企業本体だけではなく、より広い範囲に拡大して行われるべきだとされている。「ステークホルダー」(stakeholder 利害関係者)という考え方だ。
企業という「子供」だけではなく、株主という「保護者」、政府という「先生」、そして、地域社会という「PTA」までも巻き込んでのモラル維持と、よりよい関係の構築が行われるべきだというわけである。こうした広範囲の関係者を「ステークホルダー」と呼んで、コーポレート・ガバナンスを考える上での前提とするようになっている。
コーポレート・ガバナンスが強調されるようになった背景には、企業を巡って続発した様々な不祥事がある。企業のモラルについては厳しいと思われていたアメリカで、エンロンやワールドコムといった巨大企業が、粉飾決算などのあってはならないルール違反を犯し、アメリカの企業社会全体の信用が大きく損なわれたのだ。
一方、日本でもカネボウ、西武鉄道、不二家などの日本を代表する企業で不祥事が相次いだ。「優等生」と思われていた子供が、とんでもない悪さをしていたわけで、教育システムを徹底的に見直す必要があることから、コーポレート・ガバナンスの重要性が高まったというわけだ。
アメリカではこの教訓から、SOX法という極めて厳しい法律が誕生した。その目的は、コーポレート・ガバナンスの徹底だ。日本でも、介護保険料の不正請求をしていたコムスンや、品質表示を偽装していたミートホープ、中途解約のトラブルが相次いだNOVAなど、コーポレート・ガバナンスが欠如した企業には、厳しい社会的な制裁が加えられるようになっている。
今後、こうした動きは一層高まることは確実。「コーポレート・ガバナンス」の徹底は、企業にとっての生命線なのである。