全世界に衝撃を与えたこの事件以降、「世界反ドーピング機関」などが中心となって、厳しい監視体制が作り上げられた。ドーピングが横行すれば、スポーツマンシップが根底から揺らいでしまうからである。
「証券取引等監視委員会」は、証券や外国為替など、金融取引における不正をチェックし、告発する金融界の「反ドーピング機関」だ。アメリカのSEC(Security Exchange Commission)に倣って、92年に設立された組織で、日本版SEC、あるいはそのままSECと呼ばれることも多い。
対象としているのは、株価を不正につり上げたりする「相場操縦」や、うその情報を流す「風説の流布」、内部情報を利用した「インサイダー取引」に、一部の顧客だけを優遇する「損失補てん」など、多方面に及ぶ。市場の透明性と公平性の確保が目的で、一部の市場参加者が不正を行い、それによって、正直者が損をするようなことがないようにしようというものなのだ。
証券取引等監視委員会のスタッフは、株式市場を中心とした金融市場の動きを詳細にチェック、不自然な動きがあれば、即座に調査に入る。
ある企業が画期的な新商品を発表して株価が急上昇した際、発表の直前に株式を購入し、直後に売り抜けて大儲けした投資家がいたとしよう。証券取引等監視委員会は、この投資家を直ちに調査、事前に内部情報を入手することによって行われた「インサイダー取引」ではないかをチェックする。正当な取引による「金メダル」なのか、不正な手段を使った「ドーピング」なのかを見極めるのだ。2008年1月に発覚した、NHKの記者らが報道局の特ダネ情報を使って利益を上げた株取引は、この典型的な例であった。
華々しい買収劇で日本中の注目を集めたライブドアの堀江貴文元社長に対しても、証券取引等監視委員会は、「風説の流布」を行ったとして、捜査のメスを入れた。そして、堀江元社長は、日本経済の「金メダリスト」の座をはく奪されることになったのである。
証券取引等監視委員会では、第三者からの告発も重要視している。「あの人、株で大儲けしたんだけど、裏があるんじゃないか」といった告発に基づいて調査を実施、不正の摘発に結び付けた例も少なくない。証券取引等監視委員会は、ホームページに「情報受付窓口」を設けるなど、誰でも簡単に情報提供ができるような体制を作り上げている。
株式の売買などで大きな利益を上げた「金メダル」は「ドーピング」によるものではないのか? 証券取引等監視委員会は、金融市場から「ドーピング」を追放し、フェアプレーが行われるようにと、日々監視の目を光らせているのである。