「信用格付け」も、このミシュランガイドと同じである。対象となるのは国が発行する国債や、企業が発行する社債などの債券が対象となる(しばしば誤解されるが、株式は対象外だ)。債券は国や企業が発行する「借用証書」であり、満期に現金を受け取れるかどうかという信用力は、金利と並んで、購入する際の重要な要素となる。これを客観的に評価し、投資情報として提供するのが、信用格付けなのである。
信用格付けを行っているのは民間の調査会社で、ムーディーズとスタンダード&プアーズがよく知られているが、他にもフィッチ、日本格付研究所(JCR)、格付投資情報センターなどがある。
信用格付けの方法も、ミシュランガイドの星の数に似ている。ムーディーズの場合で見てみよう。最上級、つまり最も高い信用力を持つものは「Aaa」(信用力が最も高い)で、「Aa」「A」「Baa」「Ba」「B」(信用リスクが高く投機的)と続き、最下位の「C」は、資金回収の見込みが極めて薄いとされ、その債券は紙くず同然と考えられる。例えば、三つ星レストランに相当する「Aaa」の債券を購入すれば、最高の味が楽しめるが、「B」となると、味が悪い上にお腹をこわす心配が高くなる。そして、「C」のレストランで食べると、「食中毒は確実」となるわけだ。
投資家の多くは、信用格付けを投資判断の重要な材料としていて、格付けが「B」になったら、自動的に手放すといったルールを設けているところもある。したがって、信用格付けが企業の命運を左右する場合もある。山一証券がその典型だ。経営危機に陥っていた山一証券に対して、ムーディーズが格付けを「B」にすると発表した。すると、信用不安が一気に高まり、経営破綻へと追い込まれてしまったのだ。
こうしたことから、企業はもちろん、政府も格付けの動向には神経をとがらせる。特に国債の場合は、政府の面目がつぶれることから、反発が強い。景気低迷と巨額の財政赤字から、日本の国債が立て続けに格下げされ、二流国扱いされた際には、財務大臣が「日本はそんな国ではない。格付けは間違っている!」と、強い抗議を表明したこともあった。星の数を減らされたシェフも、こんな気持ちだったのだろうが、格付け会社側は全く動じることなく、評価の正当性を主張するのみだった。
しかし、ミシュランの星の数に様々な異論があるように、信用格付けも、あくまで民間の調査会社が、独自の基準で行っているもので、絶対的なものではない。高い評価を得ていた債券が紙くずになった場合もあるし、信用力が過小評価されている場合も少なくない。日本の場合、「格付け会社」ではなく、より公的な印象を与える「格付け機関」と表記されていることも、過大評価の一因なのかもしれない。
レストランを評価するのは、あくまで「自分の舌」であり、レストランガイドではない。ミシュランのレストランガイド同様、少しくらい格付けが下がっても慌てることなく、「自分の舌」による投資判断を大切にしたいものだ。