自動車マニアの知人が、カタログを眺めながらつぶやいている。パワーウェイトレシオ(power weight ratio)とは、車体重量を馬力で割ったもので、数字が小さいほど加速性能が良いのだという。
どんなに馬力があっても、車体が重ければ走行性能は低くなる。単純に馬力だけを比較しても、自動車の本当の性能は判断できない。そこで自動車メーカーは、「100馬力」といった基本的なデータのほかに、これを組み合わせた様々な指標を自動車のカタログに記載し、購入する際の判断材料を提供している。
株式投資においても、同じような指標がある。企業を自動車と考えると、株価は自動車の価格、売上高や利益は車体の大きさや最高速度などとなる。こうした基本的なデータに加えて、これらを組み合わせた指標が開発され、投資の際の判断材料となっているのだ。
代表的なものが「ROE」だ。“return on equity”の略で、「自己資本利益率」(株主資本利益率)などと訳されている。自己資本は企業が投資家などから集めているお金ことで、ROEは、当期純利益(税金などを差し引いた後に残る企業の最終的な利益)を自己資本で割って算出する。
自己資本の大きな企業なら、利益が大くても当然で、その額を単純に比較しても企業の業績は判断できない。そこでROEが登場する。ROEが高ければ高いほど、企業に投入されているお金が効率的に使われ、より大きな利益を生んでいることになる。反対にROEが低い企業は、集めているお金の割に利益が小さい企業となる。
自己資本が企業に供給されている「ガソリンの量」なら、当期純利益は「走行距離」、ROEは「燃費」に相当する。したがって、自己資本が小さくてもROEが高い企業は燃費のよい「軽自動車」ということになる。一方、自己資本は大きいが、それに見合う利益が上げられずにROEが低い企業は、燃費の悪い「アメ車」というわけだ。
一般にROEの目安は15~20%程度とされているが、絶対的なものではない。また、成長中の企業はROEが高く、成熟企業ほど低いのが一般的となっている。
株式の「お買い得度」を示す指標もある。「PER」だ。“price earnings ratio”の略で、日本語では「株価収益率」となる。PERは、株価が1株当たりの利益の何倍になっているかを示すもので、株価を1株当たりの当期純利益で割って算出する。株価500円の企業の1株当たりの当期純利益が50円なら、PERは10倍(=500円÷50円)となる。
PERが低ければ、株価の割に利益が大きいと考えられるため、その企業の株式は「お買い得」と考えることができる。反対に、PERが高い企業は利益に比べて株価が高く、「割高」だと判断できるのだ。PERは自動車の価格と走行性能の比較であり、「この性能で200万円なら安い!」「300万円もするのに、この程度の性能では物足りない…」といった判断材料を提供してくれるのである。
しかし、PERには「30倍が標準」といった絶対的な水準は存在しない。PERは業種によっても、また、企業の成長の度合いによっても異なってくる。将来の成長が期待される若い企業や、成長分野の企業では、期待感からPERが500倍を超えるような場合もある。一方で、成熟産業や企業の場合は、10倍以下という低いPERになっている場合もある。
したがって、「PERが低い=割安」と判断して株式を購入するのは危険だ。PERが50倍でも、同じような業績のライバル会社のPERが80倍なら「割安」と考えられる。反対に、PERが10倍でも業界平均のPERが5倍なら「割高」と考えられる。
株式投資にはこのほかにも、「PBR」(株価純資産倍率 price book-value ratio)、「ROA」(純資産利益率 return on asset)、「配当利回り」など様々なデータがある。しかし、いずれも判断材料の一つであり、絶対的なものは存在しない。自動車のカタログにずらりと並ぶデータ同様に、ROEやPERなどの指標を総合的に分析し、最も自分にふさわしいものを選ぶのが、株式投資の極意なのである。