どの家庭にも設置されているブレーカーは、あらかじめ設定されている電力量を超えると、自動的に電気の供給を止めて安全を確保する。過大な電流が流れるのは、電気の使い過ぎのほかに電気器具の故障が引き起こしている場合もあり、原因をしっかり確認した上で再び通電することになる。
金融市場にも同じようなシステムが存在している。「サーキット・ブレーカー」だ。株式市場などで相場が大きく変動した場合、市場の混乱を緩和し、冷静さを取り戻すために、取引を一時停止させるというものだ。
世界の株式市場の中心であるニューヨーク証券取引所の例を見てみよう。ニューヨーク証券取引所では、ダウ平均株価が前日から10%下落した場合に、最大で1時間市場を閉鎖する。取引再開後も下げが止まらず、さらに10%下落した場合、今度は最大で2時間、それでも下げ止まらず合計で30%下落すると、自動的にその日の取引が打ち切られることになっている。
ニューヨーク証券取引所が、現在のようなサーキット・ブレーカーを導入したのは、1987年10月19日の月曜日に発生した株価の大暴落、いわゆる「ブラックマンデー」の教訓からだ。ブラックマンデーを引き起こした原因として、アメリカの「双子の赤字」の悪化といった漠然とした理由が指摘されているが、それは後付けで、いまだに原因は解明されていない。確かに言えるのは、市場参加者がパニックに陥り、われ先にと株を投げ売りしたことだけなのである。
そこで、こうした事態を回避するためにサーキット・ブレーカーが登場した。取引を一時的にストップさせ、市場参加者たちが冷静な判断を下せる猶予を与えることで、混乱を最小限に食い止めようとしたのである。
サーキット・ブレーカーは、それぞれの取引所が独自に設定している。東京証券取引所の場合、サーキット・ブレーカーは株式の先物市場のみに設定されていて、通常の株取引(現物取引)については、市場全体の取引を止めるルールは設定されていない。現物取引では、銘柄ごとに「値幅制限」が設けられていて、これがサーキット・ブレーカーの役割を果たしているのである。一方、ニューヨーク証券取引所は、個別銘柄ごとの値幅制限がないことから、市場全体を止めるという方法を採用しているのだ。
市場の混乱を抑える効果を持つサーキット・ブレーカーだが、相場の流れを変えることはできない。サーキット・ブレーカーによって取引がいったん停止されたとしても、相場の下落をもたらした材料や要因が解消されない限り、取引再開後には再び下落を始めることになるのである。
電気のブレーカーは、使用している電気器具を減らしたり、故障している電気器具を発見したりするといった、過大な電流が流れた原因を取り除かない限り、何度でも作動してしまう。「サーキット・ブレーカー」も同様だ。市場参加者が冷静になっても、売る要因が残されていれば、市場は下落を続けざるを得ないのである。