映画「交渉人 真下正義」の公開に際して、プロデューサーの亀山千広氏はこう説明した。「踊る大捜査線」は、1997年に放送されたテレビドラマ(フジテレビ系)で、後に数本のスペシャル版が制作された他、映画版も空前の大ヒットとなった。
「交渉人 真下正義」は、その人気にあやかって、主役の青島刑事の同僚である真下刑事を主役に据えた映画。テレビドラマから「派生」し、「スピンオフ」とも呼ばれるこの映画も、狙い通りのヒットとなった。ここで使われた「派生」という同じ意味を持っているのが「デリバティブ」だ。
「デリバティブ」は、株式や外国為替、原油や金などの取引から、それを補完する目的で生み出された特殊な取引の総称だ。通常の取引が「踊る大捜査線」なら、そこから派生した「交渉人 真下正義」が「デリバティブ」というわけなのだ。
デリバティブには様々な種類があり、日々増殖している。「先物取引」はその代表的なもので、原油や小麦などの商品、債券などの金融商品を取引する場合、価格の変動リスクを減らすために、実際の受け渡しの前に先立って取引をしておくこと。品物を受け渡すまでに時間差があることから、商品そのものと代金移動が伴わず、手付金に相当する少額の証拠金のみで取引が可能となる。
お金を払ってその場で商品を受け取るという通常の取引(現物取引)に対して、「先物取引」はそこから派生したものという意味で「デリバティブ」と呼ばれているのだ。
デリバティブには、これ以外にも実に多くの種類が存在している。ドル・円相場が円高になっても、一定の相場水準を保障してくれる「通貨オプション」、天候不順で農作物が不作になったり、イベントが中止に追い込まれたりした場合、その損失を埋め合わせてくれる「天候デリバティブ」、融資先が破綻して焦げ付きが発生した場合、損失を補償してくれる「クレジットデリバティブ」、固定金利のローンと変動金利のローンを交換する「金利スワップ」などもある。
「踊る大捜査線」の主役は青島刑事一人であり、ドラマの設定には限界がある。これに対して、「派生作品」であれば、上司を主役にした「容疑者 室井慎次」、敵対する弁護士を主役にした「弁護士 灰島秀樹」など、多様な展開が可能となる。デリバティブも同様で、派生したものであることから、より自由で大胆な取引のアイデアが生み出されているのである。
通常の取引を補う目的で作られたデリバティブだが、次第に一人歩きするようになっている。わずかな金額で大きな取引が可能となる「先物取引」は、当初のリスク軽減という目的から、大きな投機取引を引き起こす要因となっている。また、「通貨オプション」も大きく拡大し、通常の外国為替取引と肩を並べるほどの規模に成長した。
デリバティブが通常の取引を超え、さらにはその動きを支配する事態も生まれている。脇役だった真下刑事が、主役だった青島刑事をこき使っているというわけだ。
「踊る大捜査線」は連続ドラマとしては1クール(11本)のみ、視聴率は平均18%と爆発的なヒットとは言えなかった。むしろ、その後のスペシャル版や映画版、そして、「交渉人 真下正義」などの「派生作品」によって、人気が確立されていったのだ。
通常の取引から派生した「デリバティブ」も、巨大化と多様化を加速させながら、世界経済を左右する「主役」に急成長しているのである。