個人の借用証書を売買するのは容易ではないが、自由に売買されている借用証書もある。企業が発行する「社債」だ。
企業が借金をする場合、銀行融資を受けるのが一般的だが、より広い範囲でお金を借りる方法もある。この際に利用されるのが社債で、借用証書と同様に、金額(額面金額)と返済期日(償還期限)、支払われる利息などが記されている。売買可能な借用証書は「債券」と呼ばれ、国が発行するものが「国債」、地方自治体が発行するものが「地方債」、そして企業が発行するものが社債となる。
社債は証券会社などを経由して、自由に売買されている。そのため、投資家にとっては、お金が必要になればいつでも売却して現金に換えられることから、資金を出しやすくなる。もし、知人が、社債を買う形で親類にお金を貸していれば、悩むことはなかったと言えるだろう。
ただし、社債は借用証書であり、返済不能となるリスクがついて回る。したがって、信用力の低い企業が発行する社債は、買い手がためらうことから、より高い利息をつけざるを得なくなる。優良企業の社債金利は0.5%だが、経営に不安のある企業の社債金利は5%になるなど、信用力に応じて社債金利が決定されている。
一方、すでに発行されている社債(既発債)の場合は、発行後にその企業の信用力が低下しても、社債金利はすでに決められていて変えられない。そこで今度は価格が変化する。私が知人の親類の100万円の借用証書を「80万円なら買うよ」と提案したように、信用力が低下した社債は、額面金額を割り込んでの売買となる。一方で、社債金利が信用力に比べて高いと評価されれば、額面100万円の社債が105万円などと、額面金額以上で取引されることもある。
日本では社債の信用力は高く維持されてきた。社債を発行するような企業は規模が大きく、倒産などの心配がほとんどなかったからだ。しかし、東京電力の原発事故を契機に状況は一変した。
事故発生時点での東京電力の社債残高は5兆円以上と、金融機関を除けば国内最大だった。しかし、原発事故でその信用力は急低下、仮に返済不能(デフォルト)となれば東京電力の社債を購入している投資家や企業に莫大な損失が発生してしまう。すなわち、東京電力に端を発した信用不安は社債市場全体を揺るがす恐れがある。
政府は東電の社債を保護する方針を打ち出しているが、国民の負担増につながる可能性もあるため、実現への曲折も予想される。企業の資金調達の重要な手段である社債だが、今後の展開によっては、個人の借用証書同様に売買不能という事態に陥りかねない状況と言えるだろう。