国債の発行市場は、発行元である政府(財務省)と、購入を希望する金融機関とで構成され、入札によって販売先が決定されている。通常、入札といえば高い価格を提示した順番に落札されるが、国債の場合には金利で入札が行われている点が大きな特徴だ。国債は政府が発行する借用証書であり、その金利は借入金利に相当する。金利は低ければ低いほどよいことから、政府は低い金利を提示した順に国債を販売しているのだ。国債を購入する金融機関としては、金利は高い方がいいが、欲張りすぎると、競争相手に取られてしまう。国債というマグロが泳いでいる発行市場では、金融機関という漁船が、金利というエサを調整しながら漁をしているのだ。
一方、釣り上げられたマグロが売買される築地市場に相当するのが流通市場だ。築地市場では取引業者が集まり公開で売買をする「セリ」と、取引業者同士が直接交渉する「相対取引」がある。国債の流通市場も同じで、セリに相当する「取引所取引」と、相対取引に相当する「店頭取引」がある。
国債の取引所取引の役割を担っているのが「日本相互証券」で、金融機関からの売買注文を集めて取引を成立させている。しかし、扱われている国債は10年物を中心とした限られた銘柄だけだ。一方、国債取引の大半は店頭取引で行われており、金融機関同士が直接売買をしている。国債は異なった利率と償還期限のものが毎月発行されているため種類が極めて多く、そのすべてを取引所で行うことは不可能になっている。
しかし、取引量が少なくても、取引所取引の持つ意味は大きい。取引所取引の対象銘柄は国債の代表銘柄であり、店頭取引もその動きを見ながら行われている。セリにかけられているのは「大間のマグロ」であり、その動向が他のマグロの取引にも左右する状況と同じだ。
発行市場と同じく、流通市場も金利で取引されている。「10年物国債を0.765%で100億円買います」といった具合に0.005%刻みで取引され、国債の人気が上がれば金利は低下、反対に大量発行などで人気が低下すると金利は上昇することになる。
マグロの場合、築地市場で販売先が決まり、すし店や食卓に並ぶことになるが、国債は事情が異なる。国債の大半は銀行や生命保険会社などの金融機関などが保有、個人はもとより、一般企業もあまり保有していない。国債というマグロは、築地市場の業者の冷蔵庫を行き来するだけで、一般消費者にはあまり出回っていないのが実態なのである。
国債の大量発行が続く日本。マグロの漁獲高は増える一方だが、その価格である金利は低水準で、好調な売れ行きを示している。しかし、国債の大半を金融機関が抱えていることから、実際の需要と供給を反映していないとの指摘もある。捕れすぎによる供給過剰で、投資家から見放される日が来るのではないのか? 国債市場には、不安な影がつきまとっている。