国債の市場動向に関するニュースで、頻繁に登場する金利と価格の関係は、金融取引の中でも理解しにくいものの一つだろう。
なぜ、国債の金利が上がると、価格が下がるという逆の動きになるのか。この仕組みを理解するために、国債をニワトリ、金利をニワトリが産むタマゴに置き換えてみよう。
今、一日にタマゴを2個産むAという品種のニワトリが販売されているとする。ここに、ライバル業者が一日にタマゴを3個産む新しい品種Bを、同じ価格で売り出したとしよう。価格が同じなら、タマゴをたくさん産む品種Bに買い注文が集まり、品種Aは販売不振に陥るだろう。
品種Aの売り上げを回復させるためには、品種Bと同じ3個のタマゴを産むようにすればよいが、それは不可能だ。そこで、残された道はニワトリ自体の価格の引き下げとなる。産むタマゴが少ないなら、それを補うだけ販売価格を引き下げて、品種Bと対抗することになるわけだ。
国債も同じである。国債は国家が発行する借用証書であり、その時々の信用力に応じた金利が付けられ、毎月のように発行されている。今、償還期限5年、額面金額1万円の国債が、金利1%で発行されたとする。その後、国の財政事情が悪化して信用不安が拡大、次に発行された同じ5年物の国債金利が3%に上昇したとすると、金利が1%しか付かない国債の人気は急落する。しかし、ニワトリが産むタマゴの数を増やせないように、発行済みの国債金利の変更はできない。そこで、金利3%の国債と同じ条件(利回り)になるように、金利1%国債の価格を下げることで調整するのだ。
では、価格はどこまで下がるのか? 金利1%、額面金額1万円の国債を5年間保有すると1万円×1%×5年=500円の利息が得られる。一方、金利3%の国債の場合、利息は1500円、1%国債より1000円多くなる。そこで、金利1%の国債を1000円値引きし、9000円で売れば同じ条件(利回り)となるわけだ。
一方で、後から発行された国債の金利が、低くなることもある。この場合、すでに発行されている高い金利の国債に買い注文が集まり、利回りが同程度になるまで価格は上昇する。これが国債の金利が上昇すると価格が下落、金利が下落すると価格が上昇する仕組みなのである。
国が発行する借用証書である国債の金利は、通常の借金と同じように借り手、つまり国の信用力に応じて決められる。財政赤字が増えれば返済が滞り、最悪の場合には返済不能(デフォルト)となる恐れが高くなる。信用力の下がった国債は容易に売れなくなることから、より高い金利を付けて、買い手を探すことになる。しかし、金利上昇に伴って、すでに発行されている国債の価格は下落するため、保有者には大きな損失が発生する。
2011年に財政危機に陥ったギリシャでは、1年物の国債金利が100%を超える事態となり、その価格が暴落した。これによって、大量のギリシャ国債を保有していたヨーロッパの銀行は大きな損失を計上、ユーロ圏各国が対応を迫られた。どんなにたくさんタマゴを産んでも、すぐに死んでしまうかもしれないニワトリには誰も見向きもせず、価格が暴落したのだった。
国債価格の下落をもたらす金利の上昇、その動向からは、一時も目を離すことはできないのである。