「人気の大島か、実力の高橋か?」という問いかけに、「大島でしょう!」と断言するのが経済学者のJ・M・ケインズだ。
ケインズは株式市場をはじめとした金融市場の動きを、美人を選び出す「ミスコンテスト」に置き換えて分析を試みた。株式市場では、投資家の支持を受けて買い注文が増えると株価が上昇、支持が減れば株価は下落する。株式市場では、投資家が「美人」だと思って「投票」することで株価という「順位」が上がる「美人投票」が行われているとケインズは考えたのだ。
では、どうすれば株式市場で利益を上げられるのか? ケインズは「自分が美人だと思う女性」を選ぶのではなく、「より多くの人が美人だと思う女性」を選ぶべきだと主張した。その女性が美しいかという客観的な判断は不要で、周囲の動向を見て決めればよいというのである。
株価は株式を発行している企業の業績や将来性などの「実力」を反映して決まるものと思われがちだ。しかし、実際の株価は投資家の思惑で左右されている。会社の業績が好調でも、「今がピークでこれから下り坂だ」という思惑が広がれば株価は下落してしまうし、経営が苦しい企業でも「支援企業が現れる」といった噂が広がり、投資家の多くがそれを信用すれば、安心感から株価は上昇する。重要なのは投資家の「人気」であり、企業に「実力」があるかどうかは問題にならないというわけなのだ。
もし、株価がアナリストなどの専門家による評価で決められるなら、「実力」が反映されるだろう。AKB48の「総選挙」も、人気投票ではなく、制作スタッフや芸能評論家などが決めるなら、実力のある高橋みなみがトップになるかもしれない。しかし、株式市場もAKB48の「総選挙」も、多くの人々による「美人投票」の結果を反映する。したがって、「実力の高橋」ではなく、「人気の大島」を選んで投資をすることが、株式市場で利益をあげる秘訣だとケインズは主張したのだった。
こうしたケインズの考え方には異論も多い。根拠もないまま、一時的に人気を集めたとしても、実力が伴わなければいずれ株価は下落する。目先の人気に惑わされずに、しっかりと企業の実態を見定めるべきだというわけだ。こうした投資手法の一つが「バリュー投資」だ。実力があるにもかかわらず株価が低迷している銘柄を見つけ出し、より長い目で投資をすることで大きな利益が得られると考えるわけなのである。
安倍新政権の誕生以降、日本の株式市場の「人気」が急上昇しているが、「実力」に相当する企業業績の回復は十分とはいえない。ケインズの「美人投票」の考え方に立てば、積極的に株式投資をするべきなのだが果たしてどうなのか? 多くの投資家が、「大島か? 高橋か?」という選択に頭を悩ませているのである。