株式市場にも同じような非売品がある。「未公開株式」だ。広く一般投資家に売却する「公開」が行われておらず、証券取引所で売買されていない株式である。未公開株式を保有しているのは、企業の創業者や共同経営者、その親族などの関係者で、一般の投資家が購入するためには、直接交渉して譲ってもらう以外にない。ファンクラブの会員向けに作られた非売品のように、限られた人だけが入手できるのが未公開株式なのだ。
未公開株式には、はっきりとした株価がない。株価は、企業の業績や将来性、保有している資産などをもとに、株式市場での売買を通じて形作られるが、未公開株式は株式市場で売買されていないため、株価が形成されない。そのため、会社の資産や利益などを使った独自の方法で株価が算出されているのだが、保有者の「言い値」になっているのが実態だ。しかし、ファンクラブ限定の非売品のように、限られた関係者だけが保有し、譲渡されることも少ないことから、これで十分だともいえる。
この未公開株式を「お宝」に変えるのが、広く一般投資家に株式を売却する「株式公開」だ。公開された株式は証券取引所に上場され、自由に売買され始める。株式市場へ上場できるのは、業績や規模、保有している資産などの条件を満たした限られた企業のみ。人気アイドルの非売品が、初めてオークションに出品されるため、高値で取引されることになる。
これが未公開株式の保有者を「大金持ち」にする仕組みだ。その典型的な例が、ライブドアの堀江貴文元社長。2000年にライブドアの前身「オン・ザ・エッヂ」の株式を公開した際、全株式数1万2000株のうち、7920株を堀江元社長が保有していた。売り出されたときの株価(公募価格)は1株600万円。これによって堀江前社長は475億2000万円(600万円×7920株)もの資産を手にすることとなった。ファンクラブの非売品が、オークションで驚くほどの高値になり、ファンクラブの会員を大金持ちにしたのである。
「お宝」になる可能性を秘めていることから、未公開株式を使ったトラブルも発生している。「近々上場するので、大もうけできますよ」などと言われ、価値のない未公開株式を高値で売りつけられたという事件が頻発しているのだ。株式が公開されていないことから、企業の規模や経営状況などを示す情報は極めて少なく、価格も「言い値」となる。「お宝」だと信じて購入したものの、オークションで転売しようとしたら全く売れずに大損、というわけだ。
株式を公開していない会社には、将来性のあるベンチャー企業から、竹中工務店やリクルート、サントリーやYKKなどの大手企業に至るまで様々なものがあり、上場すれば値上がり確実な「お宝」はたしかに存在する。しかし、未公開株式の売買には詐欺の温床となる条件もそろっている。偽物のアイドルグッズをつかまされることがないように、十分注意したい。