勤めている会社の業績は思わしくなく、ボーナスが出るかどうかも分からないというのだが、それでも不安なく買い物できるのは、妻の実家が資産家で、100万円まではいつでも用立ててくれる約束を取り付けているからだという。「妻の実家を時折訪れては、義父の肩をもんでご機嫌を取っているから大丈夫」と、危機感は全くない。
お金に困ったとき、すぐに融資を受けられる約束を取り付けておく。これが「コミットメントライン」だ。銀行などの金融機関と企業との間で結ばれる契約で、あらかじめ融資の上限金額を決め、その範囲内であれば、審査なしに融資が即座に実行されるというものだ。
通常、融資が行われる際には、融資先企業の業績や将来性、担保の有無などが慎重にチェックされるため、実行までにはかなりの時間を要する。したがって、突然資金繰りが苦しくなった場合、融資の審査が間に合わず、企業が破綻に追い込まれる恐れも出てくる。こんな時、コミットメントラインが設定されていれば安心というわけだ。
また、コミットメントラインがあれば、不意の支払いに備えて手元にお金を置いておく必要もなくなり、企業はより効率的な資金運用が可能となる。さらに、コミットメントラインが設けられている企業であれば、突然倒産という危険性は小さいことから、取引先に安心感を与えることもできる。
金融機関にとってもメリットがある。コミットメントラインの契約を結ぶ際、金融機関は手数料を徴収する。これは融資が実行されなくても支払われることから、コミットメントラインによって融資が実行された場合の貸出金利とあわせて、収益の拡大が可能となるのだ。
借り手の企業にも、貸し手の金融機関にもメリットのあるコミットメントラインだが、これに頼り過ぎるのは危険だ。経営が健全な企業なら、すぐに融資を返済できる。しかし、経営が悪化し資金繰りに窮している企業にとって、これを使うことは「最後のカード」を使うことに等しくなる。コミットメントラインが使われたことは、資金繰りに「赤信号」がともったと公表することに他ならず、取引の見直しや他の金融機関の融資の回収に発展する恐れもあるのだ。
企業業績が急激な悪化を見せる中、「いざとなったら、すぐにお金を貸して…」と、コミットメントラインの契約を交わす企業が増えている。しかし、金融危機の深刻化に伴い、金融機関は融資に慎重な姿勢を強め、コミットメントラインを結ぶためのハードルが高くなっている。「そう簡単には融資の約束はできないな…」と、頼りにしていた義父に断られて大慌て…。そんな企業が増えつつあるのである。